column 日々、思うこと separate

2023.12.11

コラム

痕跡

靄の秋、たゆたう河の霞移ろう情景。

点描と線描により、彼方へ続く奥行き感や空気感を描いた山水画。

ではなく、自宅マンション駐輪場の扉の一面です。
十数年毎日、ステンレスの板が擦れて出来た傷と錆による模様。今まで気に留めていなかった扉が日光に照らされ、ふと目にした際にそんな情景を感じ、立ち止まってつい見入ってしまいました。他の人にとっては単なる汚れや傷にしか見えないものですが、そこに味わいを感じて以降、この先の変化が些細な楽しみでもあります。

物の使い込まれた時間や経年変化によって生まれる味わい、共に過ごした思い出と共に刻まれていく様に魅力が深まっていくのは、個人の愛用する物であればなおさらのことでしょう。時が経っても常に奇麗であってほしい物もあると思いますが、共に使い続けた痕跡を愛おしく思い、大切にする付き合いが続く。手で扱う道具や体を使い操るモーターサイクルにとって、そんな人と物の関係を築ける出会いや物語を大事にしていきたいと思います。

(プロダクト動態デザイン部 PDユニットリーダー 木下 省吾)