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2023.06.05

コラム

「日本刀から学ぶデザインアプローチ」

日本刀は古くから、実用の道具としてだけでなく、鑑賞物や崇拝の対象として尊重されてきました。時代が進むにつれ、特に後者の比重が大きくなっています。製造工程は、長い歴史の中で良く練られており、現代にも継承されています。金槌で地金を鍛える鍛冶の工程が有名ですが、そのあとの『研ぎ』の工程も調べてみると大変興味深いです。

刀剣作りは早くから分業化が進んでおり、鎌倉時代には研ぎ師と言われる職業が確立されました。刀の性質を見抜き、適切な研ぎを施すことで、魅力を最大限引き出す。ある時から作業者ではなく、美術性を高める指導的役割へと昇華しました。

日本刀の持つ美しさを用の美と仮定すると、実用において過度な研ぎまでは不要ですが、人はそのことに大きな価値を感じてしまう。『研ぎ』は一種の矛盾を越える行為と言えます。研ぎ師の方の言葉を借りると『切れるという信頼を持つ人に与える』ことが重要なポイントとなり、これは、道具と人の関係性を心理的な側面から構築するアプローチと言えます。

対象物は異なりますが、現代のデザインの現場に置き換えても通じるものがありますね。

 

( CMFG動態デザイン部 / 経営企画部 菊地 創 )