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2023.04.24

GK Base Salon

GK Base Salon Vol.8 2023/04

弊社と親交のある方を創発スペースにお招きするGK Base Salon。

前回に引き続き、武蔵野美術大学教授小林昭世氏からお話を伺い、対面で観覧したメンバー、オンラインで参加したメンバーからの質疑応答を中心にお伝えします。

—— 「問いを立てる」ということについて質問します。デザイナーが問いを立てることは、普段の仕事だけでなく生活自体にも影響することだと思います。一方で、仕事をする上で「問いを立てる」こと自体、どこか企業活動に消費されているような感覚があります。プロジェクトとしては終わるけれど、その問い自体はずっと残り、どこかモヤモヤした気持ちの中で生活している感覚があります。

比喩的な話をすると却って混乱させてしまうかもしれませんが、卵と鶏どちらが先かという「問い」がある場合、その問いの立て方自体に難しさがあると思います。卵が鶏になる、鶏が卵を産むという一度だけの部分的に切り取った出来事を問題にしていますが、本来は繰り返される中で生まれた変化が少しずつ安定して進化するように、その長い変化の一断片で変化全体を捉えようとする問い自体が成り立っていないように思います。

デザインについても同じことが言えます。あるプロジェクトの中での問いに対して、そのプロジェクトの中で答えを提示することもありますが、別のプロジェクトでまた違った形で答えを提案したり、そうした仕事の連続中で、問いをたくさん抱えたり、答えをたくさん見つけたりしているのだと思います。問いと答えの不連続な複雑な連鎖の中で、問いを立てることが、そのプロジェクトだけでなく、別のプロジェクトでも引っかかることがあり、自分自身の変化や成長に機能する装置だと捉えてみてはどうでしょうか。

—— 近年、東京オリンピックのロゴ問題や国立競技場建設に伴う問題があり、デザインに対する社会の見方が厳しくなっているように感じます。

例えば同じオリンピックでも1964年の東京オリンピックの際には、ディレクターがいて、ピラミッド上の組織運営がなされていました。もちろん、今の時代にそうした組織のあり方が適切なのかどうかといった考え方もあります。

そうした傾向の一例としては、例えばデザイン賞においても選考基準を明確にしていることが挙げられます。世界遺産のように、我々が考えるデザインの基準よりももっと大局に立った基準も存在します。さまざまな問題意識をもった人がいますから、客観的に説明することは、ますます大切になるでしょう。

—— 小林先生から見たGKのイメージってどのようなイメージですか?

私が学生の頃からもちろんGKの名前は有名でしたので、その活動も知っていました。基礎デザイン学科とGKとの関連が深いという歴史もあります。

一方で、今から40年、あるいは50年近く前はGKという会社はある意味分かりやすかったと思います。GKという会社は、このような課題までも扱い、他の会社とは違う、こんなアプローチをしているのだという視点から捉えることができたと思います。ちょうど規模が大きくなり、分社化した頃から全体の姿が分かりづらくなったように感じています。ですが、例えば世田谷美術館での展覧会のような活動は、GKのことをあらためて知る機会になりました。

昔分かりやすかったというのは、クライアント以外の、例えばデザインを学んでいる学生たちに対しても顔が見えた、そういう機会をたくさん持っていたということも大きかったと思います。もちろん、日々の仕事が忙しいため、通常のクライアント業務以外に割くことができる時間が少なくなったのかもしれませんが、GKには社会に対して発信する機会、社会との多くの接点を持ってほしいと思います。

—— 教育の場の視点から、今後どのようなデザイナー像が求められているかについて教えてください。

とても難しい質問だと思います。教育の場では、課題に対していいデザイン、いい解答を出すという以上に学生の能力が成長するという目標があります。この質問が難しいというのは、私が教えている学科では、一つの理想的なデザイナー像を持っている訳ではなくて、様々なタイプが巣立っていけばいいなと考えています。学生の能力の発展の方向は一つでなく、多峰的だと思います。教えていても、自分と同じような人物を育てようとは思っていなくて、むしろ学生それぞれに合った分野に巣立ってほしいと考えています。自分が望む分野に進んで、自分らしい活動をしてくれることを望んでいます。

いろいろな資質をもつデザイナーがいるということは、デザイン界が規模、人数と活動の幅において今後も豊かになる、ということを前提にした楽観的な考えではあります。

—— 教育の視点で質問があります。学生の頃感じたデザインと、社会に出てから感じたデザインはそれぞれ異なっていて、自分の成長と共に形成されるように感じます。学生に教える際に先生が心がけていることがあれば教えてください。

学生とクラス全体で会う場合と、ゼミや実習のように1対1で会う場合は違いますが、1対1で会う際は、どうしてもカウンセリングに近い形になってしまいます。したがって、学生からたくさん発言してもらい、私の方は聞くことが多くなるよう心がけています。学生が話しながら、自発的に考えを整理することを支援したいと思います。30人くらいのクラスでもそういうことがうまくできればと思います。例えば進路指導でも、就職課や教員からの紹介だとあまり魅力を感じないことがありますが、自発的に自分が見つけた企業は、学生にとっては輝いて見える傾向があります。

—— 今の学生の皆さんが抱いている興味や関心は何かありますか。

美術やデザインの学生は、一般の学生の興味や関心とは少し違う傾向があるよう感じます。

日本やアメリカのZ世代の特徴が当てはまらない気がします。それは今の若い人たちだけの傾向ではなく、昔からそのような違い、若者全体とデザインをする学生の行動傾向の違いがあったと思います。そう考えると、美術やデザインを学んでいる学生は、以前も現在の学生も同じような特徴を持っているのかもしれません。

一方で、興味のあるコンテンツ自体は変化しているかもしれません。例えば幼い頃からゲームに親しんでいて、ゲームのことが好き、といった学生も多く存在します。以前はデザイン科からの就職がほとんどだったそうした業界にも、油絵科等美術からの就職が増えています。

——昔の美大生と、今の美大生で何か違いはあるのでしょうか。

まず、共通点としては、自分のやりたいとこと、関心事を常に考えていることは変わらないと思います。興味のあることややりたいことを自分自身の問題として向き合っている点では今も昔も変わらないと思います。コロナで引きこもりがちな生活が、このことに拍車をかけているようにも思います。

一方で、過去に比べて学ばなければならないことは増えています。したがって、授業の課題に取り組む際、アイデアスケッチをたくさん描いたり、リサーチに行ってしっかり調べたり、プロトタイプを満足できるまで作り込むような時間は、過去に比べると今の方が限られています。このことはデザインにも大きく影響していると思います。

——限られた時間の中で成果を迫られることは、学生だけでなく我々も直面しています。デザインの領域が多岐に渡る中で、それぞれの分野の知識もインプットしなければならないことが多くなっています。

そうですね。

おそらくそうした状況は、学生も世の中で活躍しているデザイナーも同じでしょう。立ち止まって考えろ、と批判的にいう人もいて、それはそれで大切なことですが、仕事の忙しさ、処理する情報が増えていく傾向は今後もそうなのでしょうね。

今回のサロンを通して、我々が普段携わっているデザイン業務について、客観的に考える良い機会になりました。多岐にわたる質問にも丁寧にお応えいただき、とても良い気づきを得る機会となりました。

私事ですが、小林先生の学部ゼミ生として学びの機会をいただき、時代を経ても今回のようなご縁でつながっていることがとても嬉しく、貴重な機会となりました。引き続きGKとご縁のある方をお招きする予定です。乞うご期待ください。

 

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インタビュー 記事:井上弘介

写真撮影:川那部晋輔

全体サポート:菊地創 / 加藤美咲

 

  • 取材当日は、新型コロナウイルス感染防止対策を施した上で実施しました。