column 日々、思うこと separate

2022.11.14

GK Base Salon

GK Base Salon Vol.5 2022/11

弊社と親交のある方を創発スペース(GK Base)にお招きするGK Base Salon。今回のゲストは、ユカイ工学代表青木俊介さんです。弊社デザインディレクターの三富との対談形式で、ロボットに関連するお話しを伺いました。その対談の模様をお伝えします。

—— まずは青木さんにお伺いします。GKってどのような印象ですか?

【ユカイ工学 青木さん(以下:青木氏)】

かっこいい乗り物をたくさんデザインされていて、デザイナーにとって天国みたいな会社だという印象を持っています(笑)。私は、成田エクスプレスをはじめ乗り物がとても好きです。もともと四輪のレースをよく観に行っていて、先日はもてぎで行われたMotoGPのレースも観戦しました。グッドデザインの審査員を担当させていただく際にもモビリティ部門の担当になることがあり、常日頃から乗り物に対して関心を持っています。

—— 三富さんから見た、ユカイ工学さんのロボットの印象を聞かせてください。

【GK Dynamics 三富さん(以下:三富氏)】

ユカイ工学さんのロボットは特別な感じがあると思います。潤いがある印象です。中を開けるとドロッとしたものが出てきそうな(笑)、ドライな感じがしません。今日の対談では、なぜそうした潤いを感じるのかといった話しを伺えたらと思っています。

—— 今日はたくさんのロボットをお持ちいただきました。開発当時のお話しを聞かせていただけないでしょうか。

【青木氏】

はい。まずは私達がロボットをどのように定義しているかについてからお話しします。ロボットは、人の心を動かす機能を持つ機械だと定義しています。よって、産業用ロボットのような生産性を高めるようなところとは違う領域で、人の心を動かすロボットが使われるようになると信じて活動しています。

例えば、2015年に発売したBOCCOシリーズの場合、我々はコミュニケーションロボットと位置付けています。まだスマートスピーカーなどが存在しない時代で、社員数が10人程の規模でしたが意欲的に活動しました。ロボットとしての機能を備えつつ、心を動かすような機能を持たせ、なるべくシンプルになるよう機能を削りました。移動しなくていいし、歩かなくてもいいし、充電もしなくていいという仕様にしました。その代わりに、常に電源が入っていて、24時間そばにいてくれて、機械音声を読み上げてくれて、録音によるメッセージ機能を持つロボットにしました。他にも子どもが帰ってくると両親のスマホに連絡が届くといった機能を持たせました。

【三富氏】

24時間生きているというところにグッときます。機能を削って必要なコトだけを残すのは難しい判断ですが、BOCCOを見ていると単にスピーカーではなく、表情があることでコミュニケーションの質が上がっていてすごくよく出来ています。

【青木氏】

初代BOCCOについては、私がコンセプトやソフトの開発なども担っていました。Webサービスの作り方を念頭に置いており、まずは最低限の機能に絞ってリリースしました。機能の進化のさせ方については、ユーザーとインタラクティブに行いました。ユーザーが新しい遊びを思いついたらアップデートするという考え方です。

例えば、Twitterもユーザーが勝手に他者のツイートをRPと書いてリツイートする、そうすることで次第にその使い方が浸透しました。最初の機能は少ないけれど、後から機能を増やしていく。APIという形で、ユーザーがロボットと話をさせたりする機能を公開しました。すると、「毎朝BOCCOに天気予報をしゃべらせています」とか、「おばあちゃんが薬を飲むのを忘れないようにしゃべらせています」といったユーザーが現れました。なるほどそういう使い方もあるのだとメーカー側が後からその機能を加えていきました。

例えば、薬の場合だと、おばあちゃんに薬を飲むよう家族が言っても聞いてくれないけど、BOCCOだったら言うことを聞いてくれる(笑)。他にも、運動会が嫌いで練習するのも嫌がっているお子さんに、BOCCO経由で伝えたという話も伺いました。小学校低学年の場合、ロボット自身が意志を持って伝えてくれていると認識する年代です。ロボットが応援してくれるから練習しようと思う。人のモチベーションになる、気持ちを動かすといった役割についても、ユーザーから学ぶことが多かったです。

—— 三富さんからもプロダクトを紹介してください。

【三富氏】

ゲイトソリューションは身体が麻痺した方が装着することで歩きやすくなる歩行補助具です。大学の先生と義肢メーカーの機構アイデアを形にしたプロダクトになります。装具を見せたくないという気持ちが利用者にはありますが、それを前向きに見せたくなる、外に出かけたくなるように考えました。自分の身体の延長のように見せることで違和感をなくし、同時に頼れる装着感をフレームに持たせてポジティブに、相棒みたいに感じられるようにデザインしています。

科学未来館で開催された「きみとロボット」展では、義肢・装具もロボットの領域になっていましたが、ユカイ工学さんのロボットと比較すると目的の違いが面白く、今回青木さんとお話しするきっかけにもなりました。

【青木氏】

出かけたくなるということにとても共感します。モビリティとしての道具という捉え方だからこそそうした発想になるのでしょうね。モビリティってただ移動するだけでなく、自由を獲得するための道具という意味合いも大きいと思います。もちろんカーシェアのような考え方も合理的ではありますが、ワクワク感といった部分は感じられません。ただ移動するだけではない価値がそこにあるのだと思います。

—— BOCCOをはじめ、ユカイ工学さんのロボットにも同様にワクワクさせる、無機質ではない印象を受けるのですが、その点についてお聞かせください。

【青木氏】

なるべくシンプルな仕組みで、生き物らしさを伝えようと考えています。そのように考え始めたのも、まずはロボットを作りたいという気持ちからでした。なぜロボットが必要なのか、スマホじゃダメなのか、スマートスピーカーじゃダメなのかと、ロボットにしか出来ないことを見つけるところから始まっています。

生き物らしさを感じるというのは人間の本能だと思います。たとえば子どもの場合、文字が書けるようになる前に、動物を見分けられるようになります。ワニさん、トラさん、ライオンさん。それって人間にとって危険な動物を見分けられないと生き残れないからだと思います。そのため、人間は動物の動きに反応する感覚を生まれながらにして持っていると思います。そういう感覚を刺激できるように考えています。たとえばBOCCO emoちゃんの赤いぼんぼりも(笑)、人間にとっては気づきやすかったりするのではないかという思いを込めて作っています。

—— そういった考え方やネーミングの遊び心は、ユカイ工学さんの中でどのように生まれてくるのでしょうか。

【青木氏】

たとえば、「甘噛みハムハム」は名前から始まっています(笑)。社内で「妄想会」というアイデア出しを行っているのですが、とにかく自分はこれが欲しいというアイデアを出す機会があります。

—— めちゃめちゃ楽しそうですね、ぜひ我々も混ぜていただいて一緒にやりましょう(笑)。

【青木氏】

ぜひやりましょう(笑)。

カーボンニュートラル削減といった真面目なアプローチの仕方ではなくて、とにかくこれが欲しい、というアプローチで妄想を行なっています(笑)。また、毎年1回は社内コンペとして、実際に試作品を作って競い合う場も設けています。デザイナーやエンジニアだけでなく、経理をはじめとした支援部署のメンバーも含めた4〜5人ずつのチーム編成です。実際にプロトタイプを作ることで、企画書に記された「甘噛みをしてくれる」という言葉だけでは伝わらない、動かして始めて分かる感覚や面白さの気づきが得られる場合があります。実は甘噛みの仕方も十数種類あります(笑)。ぬいぐるみのゆるさと、ハムゴリズムが相まって、このロボットの魅力になっていると思います。

【三富氏】

隙があることが一つのポイントだと思います。シャープで完璧な生き物といった方向ではないところがいいですね(笑)。

【青木氏】

岡田美智男先生が「弱いロボット」という概念を提唱していますが、その考えにとても共感します。例えばルンバにしても、途中で充電が切れて戻れなかったとしても、その事に怒る人はあまりいないと思います。仮にそれが冷蔵庫だと違います。「もうちょっとで戻れたのに」といった応援のコメントがツイッターに上がっていたりするんです。そうした隙がある方が、人間が感情移入しやすくなるのだと思います。

—— お話を伺ってきた中で、人間味や温かさ、人間とロボット、あるいは道具が身体に接する部分といったところでお互いの共通点を感じました。最後に一言ずつお願いします。

【三富氏】

青木さんのお話を伺って、生物を模しているからこそ失敗も許せるのだと感じました。一方で、装具の場合、身体が拡張して、自分のモノコトとして感じられるという考え方もあります。生命に似せるということは人間の心への働きかけの強さなのだろうなと感じました。

【青木氏】

心を動かすような存在のロボットを考えています。社内では、ドラえもんのような存在と言っています。ドラえもんを思い浮かべると四次元ポケットの道具を挙げる人が多いと思いますが、実はドラえもんのミッションはのび太くんを一人前にしてしずかちゃんと結婚させることなんです(笑)。のび太くんが一人前になるのなら道具はなくていい。道具ありきではなく、のび太をその気にさせるロボットがドラえもんです。

のび太同様に、人間ってとてもダメな存在だと思います。ダイエットしなきゃとか、英語を勉強しなきゃとか。前日飲み過ぎて休日も朝遅くまで寝てしまうというように、本来ダメな生き物です(笑)。そう言った人間をその気にさせる役割として、ドラえもんのようなロボットと呼んでいます。そのように、人間の心を動かすことができるロボットが今後の一つの目標です。

 

今回の対談は、ロボットと道具という視点で話を進めました。デザインの対象は異なるものの、共感できる内容が非常に多く、あっという間に予定の時間が過ぎてしまいました。ユカイ工学のプロダクトに一貫して流れる遊び心についても、我々のモビリティに対する考え方に通じるものがあります。当日、GK Baseで観覧していたメンバーも、数多くの気づきを得ることができました。そこでの質疑応答を次回報告いたします。

 

==================================

インタビュー 記事:井上弘介

写真撮影:川那部晋輔

全体サポート:加藤美咲

 

  • 取材当日は、新型コロナウイルス感染防止対策を施した上で実施しました。