column 日々、思うこと separate

2021.03.05

コラム

引き算できる強さ

 常日頃、製品開発において、コストと仕様について悩む我々ですが、今回は、何かしらプロダクトを作りたいとして、一体どういう姿で世に出すのが正解なのか、という点について語りたいと思います。

 昨年、oculus quest2というVRゴーグルが発売されました。VR市場では、いま大変なスピードで製品の成熟度が上がっていまして、数年前にはケーブルだらけで、設置に手間がかかる外部センサーも必要、しかも嵩張って重いと、一般には手を出しづらい姿だったものが、どんどんコンパクトでシンプルに変わってきています。

 弊社で使用しているvive cosmosも、外部センサーが無くなって、以前のモデルよりはずっと使いやすいプロダクトです。Cosmosは、PCに繋いで使用するので、まだケーブルが必要ですが、vive社のライバルであるfacebook陣営は、そこを一歩進めて、PCに接続せず、完全ワイヤレスで手軽なVR機器、oculus quest2を生みだしました。

 たとえfacebookのような大企業であっても、それがモノづくりである以上、コストを無視はできないですよね。高速なCPU積みます、メモリも増やします、ディスプレイ解像度上げます、はい、10万円です!これじゃあ、売れません…。

 そこで企業としては、この製品で最も大事な機能はキープしつつ、削れる箇所についてはコストカットを図ります。Oculus quest2については、装着感が悪くなるけど、ヘッドストラップはぺらぺらのゴム紐に、瞳孔間距離調節アジャスターも簡略化、表面処理も簡略化して、パッケージも簡素化、さらに有機ELをやめて液晶にします…。

 さて、削って削って削っていった結果、どうなったか。はっきり言って、装着感は最悪です。重量バランスが悪いので、特に顔が平たいアジア人は10分もかけてられないくらいに、目の下が圧迫されて顔に痛みが走ります。小さくし過ぎて、眼鏡が入るスペースが狭いし、かなりカスタマイズしないととても使えたもんじゃないです。

 因みに、私のoculusは、ストラップはしっかりホールドできるオプションパーツに換装し、後頭部にカウンターウェイトを付けています。顔のクッションも二重にして、頬骨への圧迫を減らし、さらに裸眼でプレイできるように、スキューバ用のレンズを接続しています。ここまでやって、ようやくviveよりちょっと劣るぐらいの装着感になりました。散々なことを言っていますけど、では、このoculus quest2が市場からどういう評価を受けたと思いますか?

 実は、非常に高い評価、絶賛といってもいいほどに好意的に迎えられています。多少着けづらくても、どうせカスタマイズするからそこは大きな問題にはなっておらず、体に纏わりつくケーブルというストレスが無くなった上に、映像も綺麗になって、VRに没頭できるようになった。このとっても明快な機能改善が、高い評価を生んでいるんです。

 今回は、自分の趣味の品を題材に、仕事でも何が大事なのかを見失わないようにしたいね、というお話をさせていただきました。どうです?ちょっと欲しくなったんじゃないですか?手軽になったVRは、今では家電量販店で買えるので、お試しあれ。

( プロダクト動態デザイン部 ユニットリーダー 本田 宗久 )