column 日々、思うこと separate

2025.11.17

コラム

必ずしも必要ではないこと

 「たぶん我々(二輪CMFデザイナー)がいなくても、世の中に困る人はいないと思います。けれど仕事をしていて分かってくるのは、自分の仕事がどこかの誰かの生活を楽しく充実したものにしたり、刺激的な冒険にしたり、豊かで喜びに満ちた気持ちにしたりしているんだということ。きっと我々が創っているのは、そういった人々の暮らしであり、街の風景なんだと思います。」

 数年前に二輪デザイン公開講座という大学生向けの合同デザインセミナーがあり、私も講師として参加した。そしてその時の講師プロフィールシートの“学生に向けてのメッセージ”という欄に記したのが上の文章である。二輪のCMFデザインという仕事を私なりに改めて考えて、自分にとって魅力的だと思ったポイントの一つが「必ずしも必要ではない」という部分だったのだ。

 医師や農家など必ず必要な職業は存在する。それがないと私たちは今のようには暮らせない。けれど製品の色や模様が何であっても大きな不自由は生まれない。赤でも青でも黒でも製品の性能そのものは変わらない。そのはずなのに私たちの職業は存在しているし、日々どういう色にしようか、どういうグラフィックを入れるべきか頭をフル活用して考えている。人が生きるために必ずしも必要ではないはずのことを、その価値を信じて一生懸命に考えている。

 それがとても人間っぽくって、ばかばかしくって、私は好きなのだ。

(CMFG動態デザイン部 デザインディレクター 永井智)