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2025.02.03

GK Base Salon

GK Base Salon Vol.14 2025/02

弊社と親交のある方をお招きし、創発スペースでお話しを伺うGK Base Salon。今回はポリフォニー・デジタルの齋藤彰さんにお越しいただきました。齋藤さんは、テクニカルアーティストとして、グランツーリスモシリーズの制作など第一線で活躍されています。

今回は、弊社デジタルエクスペリエンスデザインユニット(DXD)の本田宗久さんが進行する形で、齋藤さんの活動や、プロシージャルワークフロー手法※ について共有いただいた上で、会場からの質問に答えていただく機会をいただきました。当日の模様をお伝えします。

※ノードなどを用いることで、どの工程からもデータを修正することができる手続き型のデータ作成手法。

<本田>
本日は齋藤彰さんをお迎えしました。5年ほど前に、GKダイナミックスにDXDというチームが出来る際、世の中のDX活動について調べていた時期がありました。その際に齋藤さんの活動を知り、自分達とは全く違うアプローチで、プロシージャルの取り組みを推進していて衝撃を受けました。齋藤さんが考える「可能性空間の考え方」について共感し、それ以降GKメンバーもプロシージャルを学んでいくきっかけになりました。私からすると、齋藤さんは憧れの方です。今日は齋藤さんのお話を楽しんで聞いていただければと思います。

<齋藤>
ご紹介いただきありがとうございます。齋藤です。まずは自己紹介させていただきます。

もともと学生の頃は理数系の機械制御を学び、卒論では人の動きをどのように機械に伝えるかということを研究しました。今だとモーションキャプチャにあたるものですが、当時はそのような言葉自体がありませんでした。その後ナムコに入社した後、現在はポリフォニー・デジタルというソニー・インタラクティブエンタテインメントの会社で働いて20年ほどになります。主に「グランツーリスモ」というゲーム制作に携わってきました。

まず、テクニカルアーティストという役割についてお話しします。ゲームを作る際の描画制作に関しては、ディレクターを中心に、アート系とエンジニアリング系の二本を軸に、それぞれいくつもの役割に分けて制作します。アート系は美術を学んだ人たちが多く、片やエンジニア系は理系出身者が多いメンバー構成です。この両者が話し合いながらゲームを作ることになりますが、両者を繋げる通訳者のような役割がテクニカルアーティストになります。

——アートチームとエンジニアチームの関係が円滑にいかず、コミュニケーションのとりにくさがあることには共感します(笑)。我々もモノづくりを行う上で、自分たちの言語とエンジニアさんの言語が異なり、より良いものを創るためにどのように意思疎通を行えば良いか戸惑うことがあります。日頃から、テクニカルアーティスト的な存在の必要性を感じています。

なんでも屋さんのように思われることもあるので、「テクニカルアーティスト」という名前自体が果たして適切なのかなと思うことがあります。もっとこの職能を表す良い名称がないかなと思っています。おっしゃっていただいた通り、意思疎通を行う業務の幅が広すぎることが課題だと感じています。

ここからは、GKの皆さんも推進されているプロシージャルワークフローに関して、Houdiniというアプリケーションからお話ししたいと思います。

まず1987年にプロシージャルに特化したアプリケーション「PRISMS」が登場し、その後1996年には現在の「Houdini」という名前に変わりました。このアプリは、爆発する瞬間の表現や、ビルが崩壊するといった映像表現に優れていて、米国のアカデミー賞やエミー賞といった賞を受賞した映像に使われた実績もある上、特筆すべき点として、ソフトウェアそのものがアカデミー賞で科学技術部門賞を受賞しています。このアプリ自体は昔から存在するのでゲーム開発にも使われていましたが、2010年ごろのプレステ3、4あたりからプレステ自体の性能が高まったこともあり、一層用いられるようになりました。

オープンワールドという空間を作って、プレイヤーがその中で自由に行き来できるロールプレイングゲームなどが流行ったこともあり、ゲーム内のアセットと呼ばれるオブジェクトの質と量が爆発的に向上しました。そのため、各ゲーム会社は、その対策としてプロシージャルワークフローに着目しました。

この手法は、作業のどの工程からも修正することができるため、プロシージャル≒非破壊と捉えることができます。上流で工程に変更があっても、破綻することなく成果物を生成することができます。一度組んだネットワークは、上段の工程に戻って修正でき、形状を維持することができます。

——様々な成果物を作る際、斎藤さんの頭の中には、最終形状のイメージが描かれた上で創るのでしょうか。

はい、イメージは存在します。

こういうものを作りたいというイメージが存在して、それに必要な手続きは何か、どの順番だと最終形に近づけられるのかということを考えながら、個々のツールの設計とノードネットワークの設計を行なっています。

——イメージが最初にあるという点では、会場のGKデザイナーも共感しているのではないかと思います。様々な選択肢の中でこの表現だ、と思い描くことはデザイナーの役割だと思いますが、そういう見つけ方は齋藤さんの中でノウハウがあったりしますか。

そういった見つけ方を言語化できれば良いのですが、例えばイメージを具現化して、最後に選択肢が二つあったとした場合、そこでの選択は直感に依るところが大きいです。

——プロダクトデザインを行う際に、全体的なフォルムやシルエットを創ることが難しいと思うのですが、必要な要件与件を与えながらプロシージャルを行うことは可能ですか。

それは可能です。例えば、架空の乗り物を作る時も、その乗り物がどのようにメンテナンスされているかといった架空のストーリーを他者と話し込むことがあります。形には理由があって、理にかなっているシルエットは大切だと思っています。

<<会場から>>
プロシージャルに関するお話を伺いながら、何か良いDNAがないと良いアウトプットにならないのではないかと感じてきました。

確かに良い積み重ねがないと、良いアウトプットにはならないと思います。以前こういうものがあったから今回はその積み上げとしての成果物になるという、時系列での遺伝的なアウトプットになると思います。系譜と呼んでも良いかもしれません。


<<会場から>>
例えば、犬の種類で考えると、いろいろな犬種が存在していますが、それもいわばDNAがあっての姿形になっていると捉えることができると思います。

今話題になっているAIがそういった分野に踏み込んでいます。AIによる「潜在空間」と捉えることもできます。

人がなぜ犬として捉えるかというのは、例えば足が四本あることや、毛がふわふわしているといった多重の軸で判断します。そのことがAI研究のコアな部分になっていると思います。

——機会学習のベースにプロシージャルが活かされていると思いますが、今の話は様々な機会学習に活用できるのではないかと感じました。

例えば山を事例にすると、どのエリアに雨水が侵食すると土砂崩れが起きるかといった可能性を表すことができます。本来はレーザーで実際の情報を取れれば良いのですが、できない場合は物理シミュレーションを行います。それは計算に時間がかかるため、大量の土砂崩れシミュレーションで計算し、それを機械に学習させて、即座に土砂崩れの結果を出すというフランスの大学の研究成果があります。これをデザイン対象に当てはめると、自分でパラメーターを何千パターンも作ることで、次からは数万パターンの対応が可能になります。

 こうした会話をゲーム業界で行うと、すぐに効率の話になりますが、GKさんのコメントからは、どのようにクオリティを上げるかという反応が多くてとても嬉しいです(笑)。

プロシージャルを導入する際の失敗例としては、効率は向上するけどクオリティは80点しか到達できない、だったら人の力で90点、100点を取りに行く方がいいという判断があります。一方で私の持論としては、機械の力を借りることで、人間が到達できないデザインに行けると信じています。ですので、今日のようにクオリティに注目してもらえるこの状況は嬉しいです。根底には良いものを作りたいという思いがお互いにあるのだと感じます。


<<会場から>>
突き詰めていくと、手続きを行うことで良いものと悪いものが出来てくると思いますが、どういう基準で良し悪しを決めていくのかが難しいのではないでしょうか。

そうですね。良し悪しを決めるのは難しいです。

例えば生成AIにおいては、ありきたりの言葉からはありきたりの表現から逸脱できない傾向が強いため、あえてありきたりのものを外す研究も行われています。キメラ的な情報を加えることによって、最大公約数的にできる傾向から逸脱できるAI 研究も存在します。

——齋藤さんが日々の業務で行っているプロシージャルの活動と、ミッドジャーニーを用いた個人の創作活動を拝見すると、いつの日かプロシージャルと生成AIが、美しい融合を見出せるのではないかと思いますがいかがでしょうか。

AIを特別視せず、数式の一つとして捉えてそれが使いやすかったらシルエットの作成に利用したいと思います。近年、生成系のAIが認知されていますが、AI自体は裾野が広いので、もっと道具的に利用できる切り出し方があると思います。

どっちが流線型としてより魅力的かといった判断だけに使えるAIも存在するので、そうした特化した機能をシルエットの作成段階で、あたかも長めの数式を用いるような感覚で使いたいなと思います。とはいえ、悔しさはありますけどね(笑)。

現状はパッケージ化されているAIが注目を集めていると思います。本来AIはもっと可能性があるものだと思います。よって、すでに世の中に存在するパッケージ化されたAIについてはあまり使ってみたいと思いません。

<<会場から>>
現状の生成AIだと、どうしても標準化された表現から逸脱しにくい傾向にあるということでしょうか。

逸脱しにくい傾向というのはその通りだと思います。

「らしさ」を表現するときに材料となるデータが足りない場合には、データ自体を水増しするデータアーギュメントという手法があります。データ自体の数を増やすことによって「らしさ」を表現しやすくなります。そうした点においても、プロシージャルの考え方は使えるのかなと思います。

——「良いものを作りたいという思い」はやはり大切だと思います。そのことを念頭に、今後もプロシージャルをはじめ、様々な手法を用いながら、良いアウトプットができるよう努めたいと思います。

本日は貴重なお話しをいただきありがとうございました。

 

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記事:井上弘介

写真撮影:川那部晋輔

全体サポート:竹田奏 / 加藤美咲