column 日々、思うこと separate

2019.12.17

コラム

「 シートエレメントの重要性について 」

少し前の話になるが10月の東京モーターショーで出展されたコンセプトモデル(電動モーターサイクル) のCMFGを担当した際にモーターサイクル(以下MC)のシートの重要性について思い知らされた。
プロジェクト終了後に展示会の視察も兼ねて会場に足を運び、ショーモデル周辺を観察していると、図らずも観客の感想が聞こえてきた。 中でも多かったのが、繊維素材を使用したシートについての声で、このモデルの大きなキャッチポイントとして素材感が大きな役割を果たしたことが確認できた。
然もありなん。モーターサイクルにおけるシートは自動車のようなインテリアと違い、エクステリアとして存在する。 さらにはその車体におけるシートの面積はおおよそ全体の10〜20%を占め、今回のようなスクータータイプはさらに大きい。 これほど大きな部分にデザインを施せるのであるから、その効果が大きいのは当然だ。
このシート素材を選んだ経緯を簡単に説明すると、当初このモデルのCMFGコンセプトを進めるにあたっては、 電動モーターサイクルであってもステレオタイプの環境保全を謳ったクリーンなだけのデザイン訴求ではなく、「遊びの心」と「先進技術」という二つのコンセプトを対置させような見せ方を目指して、車体の上半分にはメカニカルな印象と真逆となる柔らかい印象の素材を使ってみようという流れとなった。
「対置」といっても車体全体のカラーイメージとのバランスがチグハグになっては意味がない。やはり双方を引き立てあう素材となると、手元にあるサンプルではなかなかいい素材が見つからず、西日暮里の問屋街をめぐることにした。ここでの膨大な素材群から最適なものを探すのは非常に骨の折れる 作業だったが、その反面これまでシートの素材として考えた事もなかった素材を見ているとモーターサイクルのCMFGデザインはまだまだ新しい見せ方ができると思わされた。 実際にシート素材の選択肢は他のパーツ群に比べ極めて少ない。
なぜか? それはシートに突き付けられる製造要件が他のパーツに比べとても高く、使用できる素材が限られているからだ。様々な天候変化にも耐え、ライダーとマシンをつなぐ接地感や、疲れにくい快適性能などなど、シートに要求される要件は実に多岐に渡る。 しかしその厳しい条件がゆえに制限され続けたその領域は、まだまだデザインの可能性を秘めたデザイン領域のブルーオーシャンとも言える。
古来、乗馬の際に用いる鞍などは蒔絵や象嵌も施され、その存在感は非常に崇高な物であった。コネクテッド機能や電動化など、多くの最新技術が投入され、様変わりしていく現在のモビリティ市場だが、それと同じくしてそれを包み込む外装のあり方も改善していかなければならない。
 
(CMFG動態デザイン部 ユニットリーダー A・E)