column 日々、思うこと separate

2025.10.20

コラム

日常を尊ぶ

 とある業務で日本の離島に来ています。小さく可愛らしい空港からレンタカーを借りて島内を移動するのですが、自分の手で運転すると大地の起伏を感じたり、島民が運転するクルマの挙動や間合いの取り方によって、島のかたちや人々の性格など、生活文化のぼんやりとした輪郭線が浮かび上がってきます。

 島内を走るクルマは軽自動車が占めており、島の悠久的な風景に馴染んで一台一台がイキイキしています。私たちが借りたちょいヤレ軽バンも、島に流れる穏やかな空気や空間とぴったり調和して、時速40kmがこんなにも心地良いなんて…と感動すら覚えます。

 移動中に小さな浜の木陰で勉強をしている一人の女性を見かけました。強い日射しを遮るモモタマナの木が作りだす木陰は、湿気の無い涼しい風がす〜っと抜けています。横には集落の方々が植えた花が咲き、爽やかな風と静かな波の音のなかで自分だけの時間を過ごされていました。

 偶然見かけたその光景はきっと日常の一コマだと思いますが、私の眼には余りにも美しく映り込みました。非日常のワクワク感を創ることだけがデザインではない。その土地の日常を尊ぶデザインの大切さに気付かされた出来事でした。

(動態コンテクストデザイン部 シニアディレクター 早瀬 健太郎)