column 日々、思うこと separate

2025.01.06

コラム

プラスチック・ドリーム

コダック・インスタマチックという約60年前のフィルムカメラがある。正方形に写る専用フィルムはすでに売っていない。おおらかで端正なデザインが良く、華奢な感じはないのに手に取ると軽さに驚く。ほとんどプラスチックでできているのだ。手に取った感じも冷たくなく、気軽。楽しい気分になってくる。

現代はプラスチックに環境問題や安物のネガティブイメージがあるが、1960年代のコダックから感じるのはすごくポジティブな感覚だ。カメラのような複雑な機構がつくれて、頑丈に肉厚につくっても軽い。当時のプラスチックは夢の素材だったのだろう。モノづくりのポジティブな夢がカメラに乗り移っている。そんな気がする。

このカメラ、レンズもプラスチック製で世界初だったようだ。どんな写りか気になって分解、デジタルカメラ用にレンズ改造をしてみた。レンズを取られて抜け殻になったカメラを、現代のデジカメにつけた60年前のレンズで撮ってみる。

プラスチックに施されたメッキが美しい。古いプラスチックレンズは少し透明度が落ち、曇ってきていて夢の中のようだ。プラスチックの儚い夢のようだが、写真からはまだ、楽しい気分が伝わってくる。

(ハイブリッド動態デザイン部 デザインディレクター 三富 貴峰)