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弊社と親交のある方をお招きし、創発スペースでお話しを伺うGK Base Salon。今回は根津孝太さんにお越しいただきました。根津さんはクリエイティブコミュニケーター/デザイナーとして、モビリティやロボットをデザインするなど多彩な活動を行っています。また、母校である千葉大学では後進の指導も担われています。
今回は、大学時代の同級生である清水芳朗さんとの対談を中心に、会場からの質問にも答えていただく形で実施しました。当日の内容を2回に分けてお伝えします。
<清水>
——まず二人の関係ですが、大学時代はよく一緒にご飯を食べたり、バイクに乗ったりしていました。社会人になってからはそれぞれ仕事が忙しく、5年に1度程のペースで会っていました。久しぶりに会ってもすぐに大学自体に戻ったような話ができる、そんな関係が続いていました。「根津さん」は、、
「根津さん」という呼び方が普段と違って呼びにくいですが(笑)。大学時代からアウトプットに秀でていて、人間性もすごくオープンでした。常に周囲の人をワクワクさせてくれる人なので、今日は色々な話を伺えればと思います。
<根津>
ありがとうございます。では、まずは自己紹介させていただきます。
千葉大学の工学部工業意匠学科(現工業デザイン学科)を卒業して、トヨタ自動車に入社しました。その後、2005年に独立してznug design(ツナグデザイン)という会社を設立しました。GKダイナミックスの皆さんと同じで、主に工業製品の企画やデザインを行っています。対象としては乗り物が多いのと、ロボットも増えています。最近だとLOVOTというロボットをデザインさせていただきました。
(一連のプロジェクトを紹介いただいた最後に)
自分がやりがいを感じた一つのでき事として、あるプロジェクトでお世話になった方から次のようなメールをいただきました。「未来を感じますね。やる気が出ました。頑張りましょう」。こういった相手のモチベーションを上げられるのは、デザイナーだからこそできることだと思います。働きかけに応えていただけることにやりがいを感じて、僕はこの仕事を続けているのだと思います。
——根津さんは多岐にわたる仕事をされていますが、どういった考え方や基準で仕事を受けているのか、根津さんの考えや戦略を聞かせてください。
戦略というほど戦略めいたものはありません。お仕事をいただく際には、まずは「それに正義があるかないか」ということを考えます。「世の中に出すべきか出すべきではないのか」という考え方なのかもしれません。
次に、「その仕事に対して自分の力が発揮できるか」ということを考えます。世の中にあったらいいなと思っても、この仕事なら他のデザイナーの方が適しているかもと思います。そういう時には、より適した知り合いを紹介しています。
質問に対する答えとしては、「これは絶対世の中にあった方がいい、かつ自分が担った方がいい」と思える仕事ですね。
——我々はデザイン会社に勤めている一方で、クリエイターなので、実はこんなことをやりたいということを同時に考えていると思います。やりたいと思うことをどうすればできるのか、そのことに真剣に向き合うと、結局夜遅くまで働くことになってしまいます(笑)。
「znug design zecOO」 (c) znug design, inc. / (p) kazunobu Yamada
例えば、かつて自主的に開発した電動バイクのプロジェクトだと、会社の関係者から「お金にならない遊びはやめてください」と言われました(笑)。そういう遊びと思われる仕事については、「お金が出ていく仕事」という呼び方をしています。このプロジェクトでは、資金も自分で出していたのですが、自分でやれる範囲内でできることはあるし、どうしてもお金が必要なら投資家を募るというやり方もあります。ちゃんとした仲間と組めば、やりたい事が実現できるということを少しずつ学んだ感じです。
——お金とやりたい事だと、まずはやりたい事。だけどお金も必要なので、共感してくれる仲間が一緒に活動してくれる。当たり前のことですが、やりたい事を実現しながらビジネスを行うことが大事だと感じます。
<<会場から>>
世の中の仕組みとして、「面白いけど儲からない仕事」と「面白くないけど儲かる仕事」が存在すると思います。これをどうバランスさせるのかについてはどのように思いますか。
「面白いけど儲からない仕事」でも、結果的にメディアに取り上げられたりする場合があります。電動バイクの場合では、ワールドビジネスサテライトで数回に渡って取り上げられたり、EXILEのPVに登場したことや、たくさんの雑誌に掲載されたことを考えると、必ずしもマイナスにはなっていないかもしれません。
メディアに取り上げられるには、最初はラッキーが必要かもしれませんが、そこからさらに他のメディアにも取り上げられるといったことが多かったです。
<<進行者>>
ところで、根津さんはGKって会社をどのように思われますか。
それはもう日本一のデザイン会社ですよ(笑)。
GKさんは、特に文化活動をしっかりやられていると思います。Newsletterもしっかりしていて、クオリティの高い冊子を送っていただいています。そういった発信活動についてはznug designでは手が回っていないので、しっかり行わなければと刺激を受けています。
——根津さんのすごいところは、経験して勉強しているところです。まずはやってみて、そのことを糧に、どのように対応すれば良いのかを学んでいます。根津さんからパワーをもらえるのは、まずアクセルを踏んでみるという行動力と、そこでの学びを活かす部分です。
<<進行者>>
逆に根津さんは清水さんのことをどのように思っていますか。
芳朗くんはかっこいいものをデザインしているなと思っています。近いうちに、運転免許を限定解除してバイクを買おうと思っていますが、あるモデルがいいなと考えています。そのデザインに実は芳朗くんが関わっていたということを知って、あらためてすごいなって思いました。なんだか、準備したかのようなコメントですが(笑)。
バイクに乗る時には、自分自身を解放したいという思いがあります。そういう気持ちを考えたデザインがなされていると感じます。
——ヨーロッパに駐在している時にそのモデルのデザインに関わりましたが、やり切れなかった部分をやり切ろうという思いが、エンジニアをはじめとしたチームメンバーにもありました。そうした思いを感じてもらえているのであれば嬉しいです。
「カロリー(熱量)は嘘をつかない」ということを普段から考えています。込めた情熱の量は分かりますよね。例えば、100円ショップにも単に安いだけでなく、本当に素晴らしいプロダクトがあるし、値段に関係なく誰かの情熱がかけられたものは確実に存在します。モーターサイクルに関しても、デザインした人の熱量があるだろうし、それを受け止めてモノにするエンジニアをはじめとしたメンバーの熱量もある。そういう熱量は裏切らないと信じています。
さらに、そうした熱量はお客さまにも伝わって、オーラという存在になります。そのオーラにも、一つ一つ正体があるはずで、誰かが込めた熱量が全体としてのオーラになっているのだと思います。
<<進行者>>
周囲を巻き込む「巻き込み力」を、根津さんからも清水さんからも共通して感じますが、何か巻き込むために気をつけていることはありますか。
何もなくて(笑)。
あえて言うと、何にでも興味があるということかもしれません。例えば、私はゴルフはやりませんが、ゴルフ好きの人が話すゴルフの話は、いつまでも楽しく聞いていられます。釣りだったとしても同じです。好きな人が語る好きな事、あるいは人への興味や関心は、自分の中に存在するのだと思います。
——「巻き込み力」と同時に、根津さんのアウトプットからは「突き刺さるデザイン」という印象を感じますが、その辺りは意識していますか。
自分にとって違和感のあるものは作らない、ということは意識しています。違和感をなかったことにしてしまうのは、私の中では妥協だと感じています。確かに仕方がないなって時はあります、大人だし(笑)。ですが、その違和感を感じることを大切にしたいと思っています。
例えば、高校時代に所属していた柔道部の部室は、部屋に入った瞬間はめちゃめちゃ臭かったけど、3分ほど経つと中で普通に週刊ジャンプとか読んでるんです(笑)。それではだめで、最初に臭いって思ったことを覚えてなければいけない。慣れてしまったり、仕方ないという考え方は確かにあります。そういった考え方と常に戦いながら、一つずつクリアしたいと思っています。その辺りの意識が突き刺さるデザインだと感じてもらっているのかもしれません。
<<進行者>>
ありがとうございます。
根津さんのデザインに関する考え方や、GKとの共通点や違い等、さらに次号でお伝えします。
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進行 / 記事:井上弘介
写真撮影:川那部晋輔
全体サポート:竹田奏 / 菊地創