column 日々、思うこと separate

2020.03.18

コラム

二輪CMFGデザイナーが創るもの

「たぶん我々、二輪CMFGデザイナーがいなくても、世の中に困る人はいないと思います。けれど仕事をしていて分かってくるのは、自分の仕事がどこかの誰かの生活を楽しく充実したものにしたり、刺激的な冒険にしたり、豊かで喜びに満ちた気持ちにしたりしているんだということ。きっと我々が創っているのは、そういった人々の暮らしであり、街の風景なんだと思います」
 
これは大学生を対象とした二輪デザイン公開講座で講師プロフィールに書いたメッセージです。決してネガティブな発言をしたわけではなく、「CMFGデザイナーの自分が作っているものは一体なんなのだろう?」と言う問いを、自分なりに学生に伝えようとしたものでした。ごく簡単に自分達の仕事を説明すると「モーターサイクルの色やグラフィックを考えたり、ロゴを作ったり」なのかもしれません。けれどそれは一つのわかりやすい成果物であり、私たちの作っているものはもっとその先にあるのだと私は思います。
 
私がそう思うようになったのは、CMFG業務を通しての経験からに他なりません。これまで主にASEAN地域を担当することが多かったので、タイには2年駐在し、インドネシア、ベトナム、マレーシア、フィリピンには何度も調査に足を運びました。モノが使われている場所へ実際に出向き、実際のお客さんに会い、生の声を聞き、フィードバックする。シンプルですがそんな一連のサイクルを担当デザイナーがまるっと体験できる機会は貴重です。
 
生活必需品として、年収ほどの金額のモーターサイクルをようやく買って「このバイクを買うのが夢だった。嬉しすぎて一緒に横で寝ている」という愛に溢れた話を聞いたときには、思わず笑みがこぼれました。道路環境も国によってバラバラです。日本人からすると相当に眩しい色合いのモーターサイクル達が、己が道路の主役と言わんばかりに、我が物顔で縦横無尽に駆け回る国も少なくありません。小さなモーターサイクルもそれだけの数が集まると、もはやその街の景色。つまりは建築物のような大きな存在ではなくとも、自分たちの仕事は街の色・街の風景をも変える大きな影響力を持っているような気がしたのでした。
 
さて彼の地、気温40度。道路は舗装されておらず、少し赤い土の色。土埃は舞うし、マスクは必須(小物はキャラクター物大好き)。人々の肌は褐色。道路脇の露店やバスの色は極彩色なのに、服の色は意外と黒が多い(暑かろうに)。朝夜の渋滞は最悪、車通勤は往復4時間。避けるために通勤にも使うから周りからはみ出して見えるのは嫌だけど、普通なのはつまらない(人はわがまま)。週末は都会の空気汚染から脱出するために友達と山に洗肺ツーリング。往復200km(バイタリティー!)。
 
そんな一見妄想のような異国の誰かの暮らしを、足を運んで得たリアルな体験で補いながら、私たちは日々デザインで紡いでいます。
 
(CMFG動態デザイン部 ユニットリーダー 永井 智)
 
※一般的にはCMF(Color, Material, Finish)と称しますが、GK Dynamicsでは意図的にCMFG(+Graphic)を掲げています。