column 日々、思うこと separate

2020.04.06

コラム

イメージを視覚化する

GKダイナミックスでモーターサイクルのデザインに携わってから四半世紀になる。GKはヤマハ発動機株式会社と初号機の「赤トンボ(YA-1)」以来、65年に渡って親密な関係を築いている。私もこれまでにいくつかモーターサイクルのデザインを担当した。
 
その中でいつも感じるのはモーターサイクルのデザインにとって機能美が最も大切であるということ。モーターサイクルの歴史の中で長く愛されてきた名車は「機能」と「美」の調和が秀逸で、人が跨った時の佇まいがとても魅力的なものが多い。ヤマハ発動機以外の例では DUCATI 916 や MVAGUSTA F4 など、故マッシモ・タンブリーニ氏の作品が挙げられ、それらのモデルは「機能」と「美」の調和が完璧に取れた伝説的な名車と言われている。彼はエンジニア、デザイナー、実験ライダーといったマルチな能力を持ち合わせた天才であり、彼の頭の中には常に「機能」と「美」が一体化したビジョンがあったのだろうと想像できる。
 
他方で、分業化が進んだ我々のデザイン開発は、エンジニアや商品企画、そして実験ライダーといった各分野の専門家による開発チームによって協創される。しかし、これがとても難しく一筋縄ではいかないのである。それぞれ異なる強烈なポリシーを持つ各分野のプロフェッショナルが集まり、乗り心地、性能、スタイルなどを1つのカタチに集約していくプロセスは、試行錯誤を繰り返す地道な共同作業である。これには時間もかかるし、時にその信念がぶつかり合えば険悪なムードになったりもする。
 
ここで力を発揮するのが、デザイナーの「イメージを視覚化する」能力である。デザイナーはスケッチやプロトタイプを駆使して、まだ見ぬ数年後のモーターサイクルの「イメージ」を具体的に視覚化することが出来る。これは恐らくデザイナーにしか出来ない能力だ。不思議なことに、リアリスティックに描かれたデザイン画をずっと見ていると、それが実際に存在している気分になり、実現化の道筋を思いついたりするものだ。
 
「人間が想像できることは、人間は必ず実現できる」というジュール・ベルヌの言葉通り、その「イメージ」が魅力的、かつチームの共感を得ることができれば、機能美の実現に向けた大きな推進力になる。
 
「イメージ」を共有しているプロジェクトはやるべきことが明解でメンバーもスッキリ顔、会話も活発になり、チームの雰囲気がどんどん良くなる。徐々に「成功の香り」がしてきて、発売前から「これは売れる」というのが何となく分かるものだ。
 
おっとハードルを上げてしまった。またスケッチの練習をしなければ・・・。
 
(プロダクト動態デザイン部 ユニットリーダー 笹浪 一正)