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2023.08.28

GK Base Salon

GK Base Salon Vol.9 2023/08

弊社と親交のある方をお招きし、創発スペースでお話しを伺うGK Base Salon。今回のゲストは、ELAN JAPANでプロモーションを務める吉田温さんにお越しいただきました。

同社のスノーボード「TITAN」2023-2024モデルにおいて、CMFGデザインを主担当として携わった弊社松田築デザイナーとの対談形式でお伝えします。

—— 本日はお越しいただきありがとうございます。吉田さんはELAN JAPANのお仕事だけでなく、プロスノーボーダーとして活躍されているということで、様々なお話しを伺えればと思います。まず自己紹介からお願いします。

<吉田さん>

ELAN JAPANで販売促進の仕事をしています。競技者としては、1997年に全日本のハーフパイプ競技で優勝し、その翌年からプロスノーボーダーとして活動しています。当初遊びとしてスノーボードを始めて、その後プロになって20余年。第一線での競技を引退した後も、スノーボードメーカーの販売促進を担ってきた経緯があります。

<松田さん>

入社4年目で、主にモーターサイクルのCMFGを担当しています。普段の業務においては、人の心を躍らせるデザインをしたいという思いを抱いて取り組んでいます。スノーボードに関しては、親の影響で小学2年生の頃から近所の山に行って楽しんできました。

—— 共創活動に至ったきっかけを教えてください。

<吉田さん>

2022年2月にパシフィコ横浜でトレードショーが開催されました。その際、展示していたELANのスキーやスノーボードを見ながら話が盛り上がったのがきっかけでした。そのトレードショーはどちらかというとスキーがメインだったので、スノーボード担当の私の役割は、なるべく周囲に声がけして興味を持っていただくことでした。そこに松田さんたちがいたので「どうしたの」っていう声がけから始まりました。

<松田さん>

当初からELANのスキーデザインは、モダンで落ち着いた色使いが多いなという印象を抱いていました。当時は今と違って金髪で目立っていたこともあって(笑)、展示会場内で吉田さんに声をかけていただきました。

—— カタログを拝見すると、ELANのスノーボードはカテゴリーごとに統一感が感じられますが、どのような考え方で展開しているのでしょうか。

<吉田さん>

イメージの統一をはかるため、カテゴリーごとに一つのデザインを用いながら、色の差し替え等で違いを出しています。市場のニーズに応えすぎると、ついつい黒っぽいデザインになりがちです。ラインナップを俯瞰した上でELANらしさを考えつつ、適切なデザインに変えようとしていたタイミングに松田さんとのご縁ができました。

—— 常日頃から、様々なデザイン対象に対してチャレンジしたいという松田さんの姿勢が今回の共創活動につながった印象ですね。

<吉田さん>

周期的にデザイン変更を計ろうとしていたタイミングでしたので、トップエンド機種の一つであるTITANを共創の対象モデルとして提案しました。TITAN自体はカテゴライズされない、比較的ユーティリティなスノーボードとしてELANブランドを牽引するモデルです。

<松田さん>

全ての地形を滑ることができるという性能を持っているオールマウンテンボードであるという点が大きなポイントでした。スノーボードはそれぞれの用途に合わせてボード自体が特化していった歴史がありますが、このボードでは、一つの板を使いこなしていくことで様々な地形と対話できるため、そうした相棒としての役割を表現したいと考えました。

—— 普段モビリティの業務を担っている中でも商品カテゴリーを理解した上でCMFGを表現することがありますが、そうした視点での気づきはありましたか。

<松田さん>

普段からカテゴリーが持つ性質やそれぞれの地域のカルチャーのことを大切に考え、業務にあたっています。一方で、今回のスノーボードについては、デザインするにあたって理解できていないことが多かったので、プロスノーボーダーでもある吉田さんとの会話の中で学びを得ながらデザインしていきました。

<吉田さん>

スノーボードにおいては歴史の積み重ねがあって、変えてはいけない部分があります。一言で言うとカルチャーという言葉になりますが、一朝一夕で理解することは難しいです。スノーボードのカルチャーに則った上で、一目見てELANだよねって感じられる表現かどうかが大切です。おそらくデザイン対象が変わっても、共通する部分なのではないかと思います。

—— 確かに、デザインの対象となるそれぞれの分野ごとに、歴史や文化が存在しますよね。

<吉田さん>

スノーボーダーとしての自分達だけが理解しているカルチャーも存在するため、デザイナーさんにお願いする際にも一緒になってモノづくりをするプロセスが大事だと考えています。

—— 我々が普段携わっているCMFGの視点で今回のスノーボードを見た時に、グラフィック要素が非常に強いと感じます。

<吉田さん>

特に高価格帯で機能性能も良いものに関しては、モノとしてもしっかり応えなければいけないし、グラフィックも自ずと力が入るのかなと思います。そうした中でも、その機能を分かりやすく見せる工夫も存在します。

例えば、前後が対象の形になっているツインチップというモデルが多く存在します。一方で、かつてのボードは前後という概念が明確に存在しました。そうしたかつてのスタイルをカルチャーとしてグラフィックで表現しようと試みました。

<松田さん>

グラフィックを施す際に、モビリティの場合だと既にスタイリングがあって、そのスタイリングの動きをどのように表現するかを考えますが、スノーボードをデザインする際には、吉田さんから様々なお話を伺うものの、スタイリングとしてはただの楕円のキャンバスだなと思っちゃって。

—— その発言大丈夫?吉田さんに怒られるよ(笑)。

<松田さん>

デザインする上でのとっかかりが本当になくて、吉田さんとの会話の中で、ボードを大きく分割するような構成を用いることで、ボードの前後感が視覚的に感じられ、滑りやすさに繋がるということを知りデザインに取り入れることにしました。

—— ダブルネーミングとして弊社の名前を入れていただけていますが、どのような経緯があったのでしょうか。

<吉田さん>

もともと今回のモデルから、スペック表記と一緒に”made in JAPAN”を入れようということを考えていました。あわせて、今回の取り組みの成果として”GK Dynamics”のロゴも入れることを考えて、レイアウトの候補を松田さんに挙げてもらいました。

<松田さん>

吉田さんから、どの位置でもどのような大きさで配置しても良いよと伺って、目立つように大きく入れたい衝動にかられました(笑)。最終的には、両社の社名が並ぶことで、お互いにコラボレーションできたこと、またデザイン的にバランスの取れた現在の位置に入れていただくようお願いしました。

—— お二人のこだわりが表現の端々にも表れていますが、そうしたこだわりは他にありますか。

<吉田さん>

今回の大きなポイントは色合いです。「空」をテーマに表現されていますが、このモデルのイメージに合った色を松田さんと一緒に作り上げました。

<松田さん>

日本の伝統色に「瑠璃紺(るりこん)」という色がありますが、早い段階からモデルが持つ特性とそれを表す色のイメージを共有できたのが大きなポイントでした。90年代のスタイルに現代の技術を融合させたこのモデルが提供する、今も昔も変わらないスノーボードの楽しさ、そしてオールマウンテンボードとしてのダイナミックさを時代に囚われない紺碧の「空」に重ねて表現しました。表現にあたっては、最終入稿直前まで細かな調整をお願いさせていただきました。

<吉田さん>

去年までは表面がマット仕上げだったのですが、良い見栄えになるように、網点による表現を松田さんから提案してもらいました。そうした細かなこだわりを持って進められたという印象があります。既に予定生産数はクリアしていて、今日お持ちした板が最後の板です。テクニック的には、松田さんは使えない代物です(笑)。今回のデザインに対する周囲からの反響は大きく、周りからも期待値が上がっている状況です。

—— 最後に、今後に向けての抱負をお願いします。

<吉田さん>

このTITANというモデルは今後も続きます。今回のデザインは周囲からの評価も非常に高いので、このデザインをきっかけに、また次のアクティビティがあるかもしれないなと考えています。非常に良い取り組みでした。

<松田さん>

今回一緒に作り込めたと経験は、普段行っている業務に対する良い気づきにもなりました。非常に楽しかったので、今後吉田さんが関わっていくスノーボードカルチャーの中で、お役に立てることがあれば、また声がけいただけると嬉しいです。

インタビュー当日は、たくさんのスノーボードを吉田さんにご用意いただき、ボードごとの特製の違いについて丁寧に解説いただきました。とても人間味にあふれる吉田さんの人柄に、参加したメンバーもついつい引き込まれました。トレードーショーでの出会いがきっかけで始まった共創活動ですが、お互いに得難い気づきを得ることが出来ました。

これまでのGK Baseとは異なり、プロジェクトに近い内容について取り上げましたが、今後も様々な取り組みについて魅力ある方にお越しいただき、デザインの想いや裏側についても紹介できればと思います。

 

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インタビュー 記事:井上弘介

写真撮影:川那部晋輔

全体サポート:菊地創 / 加藤美咲