column 日々、思うこと separate

2021.11.01

コラム

タイムカプセル付箋(ふせん)

お休みの日、久々に自宅の書棚を掃除しました。本についたホコリを1つ1つ落としていると色々な記憶が蘇ってきてつい手が止まってしまいます。金欠時代に食費を削って手に入れた作品集、憧れのトップランナーが載っていたカルチャー誌、海外の蚤の市で買った謎の地図、背伸びして買ったけどゼンゼン理解できていない学問書…。その時代に自分が何を考えていたか、どの街に住み、どんな仲間と過ごしていたかなど、本が自分の歩いてきた道を鏡になって教えてくれるようです。引越しの多い暮らしだった私は、そのたびに本の多くを手放し、やっぱり必要!と古書で買い直すなどを繰り返してきました。無計画で気まぐれな私の手元の本は、そうした局面をサバイブしてきた猛者的ラインナップなのかもしれません。

そうした中でとある雑誌に目がいきました。表紙の端は反り返り、白地がやや黄ばんだその雑誌は「ku:nel(クウネル)」というライフスタイル誌。発行年月をみると、私がバンコクに住んでいた約10年前に買ったものと分かりました。ウェッブではなく日本で刷った書籍を(やや高額ですが)買って日本を知ることは、当時の私にとっては大いなる癒やしでした。日本書籍はとても貴重だったので、今まで大事にとっていたのかもしれません。

その雑誌にはピンク色の付箋がはみ出ていました。何気なく付箋のページを開けると、そこには見覚えのある神奈川県真鶴町の美しい景色や、町の景観を守るための「美の基準」という日本には珍しい条例の本がカラーで掲載されていました。

「見覚えがある」というのは、その真鶴町も、町の美の基準も、少し前に実際に現地へ取材として訪れたり、町役場に赴いて美の基準の本を手に入れたりしていたからです。まったく知らない、未知なる町であった筈が、実は約10年前にわざわざ付箋をつけていた「気になる対象」であったこと、それを今頃になって「無意識的に行動」していたことに驚きました。

古い付箋がタイムカプセルのように、過去の自分から今の自分へ何かのメッセージを伝えていた不思議な感覚です。まるで、もうひとりの自分による「虫の知らせ・お告げ」のような体験でしたが、紙の書物にはこうした時空を超える力がありそうです。皆さんの書棚でも「タイムカプセル付箋」を発掘してみると、過去の自分からのメッセージが隠されているかもしれません。

( CMFG動態デザイン部シニアディレクター 早瀬 健太郎 )