column 日々、思うこと separate

2020.09.09

コラム

夏の終わりと動態カラーリング

先日自身のSNSにノコギリクワガタの写真をアップしたところ、知人から「ノコギリクワガタのカラーリングは、ヤマハのバイクのカラーリングに似ている」とのコメントをいただいた。

どこがそう見えるのかというと、ノコギリクワガタの胴体の色味が、ヤマハ発動機のモーターサイクル:SR 400の25周年記念車で採用された、サンバースト塗装にその印象が重なるという。よく見ると確かにクワガタの体色である濃い赤色は、単色ではなく胴体の端に向かって美しいグラデーションで形成されている。

一般のグラフィックデザイナーが白紙から作品を作り出すのに対して、我々が行っている動態カラーリングデザインは、出来上がった造形をベースに、車両コンセプトを訴求するよう表現する。このノコギリクワガタのサンバースト風の色彩は、たくましい肢体をより立体的に見せて風格を漂わせる役割であるとすると、それはまさしく我々の活動に通ずる要素だ。

またもう一つの共通要素としては、環境に合わせた必然の色彩であるという点だ。昆虫の体色は様々な理由が仮説として唱えられており、敵から隠れるための擬態、交配、威嚇、そして突然変異など、理由は様々だがどれも自然環境への適合と淘汰の末に生まれた色合いに他ならない。

我々が日々携わっている商品は世界各国で展開されており、各市場での競合による淘汰と環境に適合させたカラーリングは、進化の末の必然の色彩と言える。

こういった我々が普段モットーとして掲げている動態カラーリングの要素を、まさかノコギリクワガタから再認識できるとは思いもよらなかった。普段見過ごしている何気ないモノにも同じような事例があるかもしれないと思うと、これまでの見方も変って観察眼がより鍛えられるのではないかと思う。

( CMFG動態デザイン部 デザインディレクター 江頭 淳 )