2011年6月27日(月)

中西進氏講演会
「日本人の忘れもの」

中西進氏講演会

万葉研究の第一人者として知られる中西進先生は、その領域にとどまることなく、古代文学の比較研究をはじめ、日本文化の全体像を視野におさめた、さらなる発展的な思索を続けられています。今回のセミナーでは、2011年5月に刊行された『こころの日本文化史』(岩波書店)をもとにお話しいただきました。アジアにおける日本の感性や文化は、古代より日本独特の地理•自然環境に培われていることを、歴史的建造物を例に解説されました。そもそも日本文化はこれまでに「情(美)」の時代と「知(真)」の時代を築きあげてきました。そして現代こそ「意(善)」の文化を完成させる時代、と指摘されました。現代の日本人は、気候風土が永らく培ってきた「本来の日本」で生活することを忘れており、今までに積み上げてきた貴重な美意識や質の高さを生かしていない、と課題を提起され、さらに日本文化の特性をデザインにも活かすことが可能であることを啓示いただきました。

中西進(なかにし すすむ)

1929年、東京生まれ。1953年東京大学文学部卒業、同大学院修了。文学博士。大阪女子大学学長、京都市立芸術大学学長などを経て、現在、富山県立高志の国文学館館長、奈良県立万葉文化館名誉館長、京都市中央図書館館長、堺市博物館館長。日本文化の比較研究・評論活動を続け、読売文学賞、日本学士院賞、菊池寛賞、大佛次郎賞ほかを受賞。
現在、全国大学国語国文学会会長、日本ペンクラブ副会長。文化功労者。主著に『中西進 万葉論集』(全8巻、講談社)、『万葉集全訳注原文付』(全4巻・別巻、講談社文庫)、『日本人の忘れもの』(全3巻、ウエッジ文庫)、『ひらがなでよめばわかる日本語』(新潮文庫)、『日本語の力』(集英社文庫)など多数。目下『中西進著作集』(全36巻、四季社)刊行中。