講演

作品と観察
ティモ・サッリ  プロダクトデザイン/ヘルシンキ芸術大学教授


 皆さんこんにちは。ようこそおいでくださいました。静けさのデザイン、シンポジウムにようこそおいでくださいました。ティモ・サッリと申します。デザイナーとしてヘルシンキで活動をしておりますが、さらに大学、アートアンドデザイン大学で教鞭も執っております。ヘルシンキ芸術大学教授です。いくつか作品を紹介しながら私の世代、あるいは私個人が今どんな考え方をしているのか、そしてデザイナーの今の、そして将来の仕事をどう捉えているのかということを説明したいと思います。時間が非常に制約があるということで、作品を絵で、まあ画像でご覧いただきたいと思います。

 これが私の作品の、まず紹介ということで、これはジャックインザボックス【jack in the box】びっくり箱と呼ばれる作品です。これはテレビなんですけれども、家というのはもうほんとにいろんなものに溢れていて、われわれはそれを気がつくこともない。もう今では、家がエンターテイメントエレクトロニクスセンター化しています。そしてその中心を成しているのがテレビです。
 私のこの作品の目的は、人と家具を直接につなげるということでした。これはジャックインザボックス、テレビがびっくり箱の形になっているということです。これによって人々の行動と、それからテレビの見方、これをもう一度デザインし直すということを考えました。単に形状ということだけではありません。テレビの画面、これは見ていない時にはこのボックスの中に入るということで、視野から消えるということになります。これによって、テレビがない形でもお互いにコミュニケーションが図れるようにするということです。 今、情報化時代に生きています。リモコンがありますので、何かをするかしないかというのを、ほとんど考えることなくやるわけです。そこで、これは非常にローテクな形でテレビを箱の中に入れるということをしました。まず見ようということを考える、テレビを見ようということを考えてからその行動に移すという、ワンステップを置くということを考えたのです。

 これは習作の一つで、二次元と三次元の変換ということです。このフラットなピースがありまして、これによりまして光、光というものに新たな意味が付け加わることになります。
   また、こちらの作品ですが、安い電灯、照明器具ということであります。これはプラスチックでカバーをしているだけなんですけれども、いろいろな層があるということで、片方は実は透明な鏡の形になっています。そういたしますと、その鏡に反射して光が別の方向にいく、ということになります。

 これはマテリアルテストでありまして、これはパワーレンジャーという名前がついております。これは金属製でありますけれども、これでロッキングチェアを作るということになっています。ですので、普通、金属といいますと、重たい、硬いという形、あるいはイメージがありますが、そうではないということが経験できるようになっています。

 それから、これは折り畳みの椅子です。非常に重たい、そして頑丈なものなんですが、ここでの問題提起は、これは本当に椅子なのか、それとも折り畳むということが主眼なのか、ということです。
 同じ考え方をしたのがこちらです。これはトランプイージーチェアといわれているんですが、トランプというのはトランスペアレント【transparent】透明性ということになります。これは金属フレームが中に入っているんですが、周りはナイロンのメッシュで包んでおります。ジッパーで中を包む形になっています。ですからこの金属のフレームを、このメッシュのもので包むだけで、あっという間に椅子になるというものです。考えているのは、デザインのクオリティーということです。何が面白く何が面白くないのか、どういうものは残し、どういうものは捨て去るのかということです。その考えを試験する上でこういった習作を作りました。
 今やっているものの一つ、これは小さな小型の軽い椅子ですですから、ちょっと趣向は異なっています。スタジオ用ということで、これはガラスのような見映えになっています。

 それからこちらですが、かなり長期に渡って手掛けてきた活動の一つです。テレビと比べて、これを暖炉で置き換えることが出来るかどうかというものであります。すなわち記憶がなくなるまでそれをなくすことが出来るかどうかということであります。すなわち、ここには先程までテレビが入っていたんですけれども、その中に何かを別なものを入れるという試みです。それでもこの暖房をじっと見ていたというメモリーは残るということになります。フィンランドでは、今、もうほとんどこういった裸火を使うということはしません。ですので、ここではガスの暖炉の明かりを使っているんです。そして、この炎を見るということでリラックスする雰囲気作りをするということです。これが一つのバージョン、また別のバージョンです。かなりこれは大きなインストレーションです。同じアイディアがベースになっています。

 それからこちらのオブジェクト、これはランプ・ランプ・ミラー・ランプという名前がついておりますが、鏡とランプを組み合わせたものです。そうすると二重の意味が一つのオブジェクトで出てくることになります。ミラーとして使える、これは日光の中で反射する、そして光と光源両方の意味、すなわち見ると見られるという両方の意味をニ重に持つということになります。それはまた、社会的意味も持つということになります。この曲面、少し角度がついていますと自分が細く見えるという“うぬぼれ”鏡の役割も果たしております。

 これはエキシビションの方で展示をしたものです。それから、これはもうちょっと真面目なものです。フィンランドの皮革、皮製品の業界のためのものなんですけれども、新しいバッグシリーズ、これは出張、ビジネストラベル用ということであります。これは離して使ったり、そして、ごろごろと運んでいくことができる。これは横の方にこのようなハンドルがついていますので、足にぶつかることなく、自分の横で引っ張ることが出来るというものです。

 次にサウナです。やはりフィンランドですから、サウナを避けて通れないということで、これはサウナで使う道具、サウナツールのものです。伝統的にサウナバケツはきちんとした形が決まっています。これに水を入れて、このサウナのオーブンに水をかける、水蒸気を出すというものなんですけれども、片手でバケツを持つ、それから中にスプーンも入っているということで、スプーンがバケツの中に入ること、そうすると、このバケツと、それからスプーン両方、柄杓、両方が片手で持てる、一気に持てるというものです。バケツ、金属を全く使わないでこんなバケツになるということで、もう一年試験的に使っています。で、一年使っても大丈夫ということがわかっています。

 これはエキジビションのデザイン、全てが静けさということではないんですけれども、こちらは私どものデザインミュージアム用にやったものです。白夜を活用してミュージアムの中の反射する表面を使うということをしました。これにより、空間の広がりを持たせようと思ったわけです。そしてエキシビションのフィーリングというものをじかに体験できるようにした。これが外、屋外の姿です。夜見るとこんな形になります。反射しています。

 これは今回のエキシビション用に作ったものです。これは昨夜の満月です。もう撮ったばかりの写真です。昨夜の満月です。月を模したということではなく、人工的な月ということで、これ角張っていますね、丸くもない。色、マテリアルということで本物とそうでないものということを対比させています。本当の月が持っているビジョンを模しているのです。月というのはいってみれば夜間の照明のようなものです。ですから非常にパワフルでもありえると。それからこれは今回日本に来てから撮った写真です。非常に面白いと思ったのが、これは二人用の椅子でしょうか、これは都会で見つけたものです。今回、椅子、座るものということに大変関心を持っておりましたので、いくつか写真を撮りました。

 これはフィンランドでエキシビション用に始めたものです。これは木製です。黒く色を付けました。これはディテールの部分です。すでに沈黙は金なりという言葉がありますので、この詳細、ディテールの部分というのも非常に強いヒンジを付けました。以上が私の作品です。



 次にオブザベーションということで、観察したものをいろいろとご紹介したいと思います。これからお見せするのは何かをメッセージとして伝えたいということではなく、これはフィンランドの島諸部、島がたくさんあるんですが、そこで撮ったものです。そこで何枚も写真を撮りました。ここから先が海になっているというところにある島です。人間が行う行動と、それがわれわれの感覚に与える影響ということです。
以上です。ありがとうございました。


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