はじめに

The Quietnss、現代と未来
栄久庵 憲司  日本フィンランドデザイン協会 会長 / GKグループ 会長


 本日のシンポジウムにご参加いただいて、本当にありがとうございます。私は残念ながら、名古屋で開催されるICOGRADA世界大会で世界デザイン機構のプレゼンテーションをする為、どうしてもこの会に参加ができません。本当に申し訳なく、また残念に思っております。そこで開会に当たって、本シンポジウムのテーマ「静けさ」について一言申し上げたいと思います。

 「静けさ」という言葉は、その言葉を聞いただけで、心の中に何かずきっとくるような、また胸の中を何かしんとさせるようなものを感じます。これは世界中の人々が共通して感ずるものではないでしょうか。人類始まって以来、おそらく言葉の発達以前から、この種の感情が人類の心の中にあって、人間の人間らしい思いをかたちづくって来たのではないかと思っております。すなわち「静けさ」の発見とは、いわば人間の人間らしいあり方の発見でもあるのです。
 考えてみますと、このような「静けさ」というものは様々な文化の基本になっており、それによって色々な文化が形成されているように思えてなりません。あらためて現代を見つめると、我々の首をかしげるような時代が来てるように思います。つまり長い歴史の中にあって、20世紀を迎えてこのかた、もう100年を越えましたが、その間非常に騒がしい時代をずっと過ごして来たように思われます。その過程で我々の生活を形成する秩序観というものは、大きな影響を受けたり、また崩れたりもしました。大変な時代を過ごしてきたのです。
 21世紀を迎えた今日、その騒々しさはさらに増し、終わる気配も無いのです。このままで行くと、地球が駄目になってしまうんじゃないか。それではいけない。何としてもこれは終わらせなきゃいけない。そのような危機感にさいなまれる今日です。特に「静けさ」というのは、誰もが日頃感じているように、自分自身を見つめ直すとか、自分の存在を明らかすることが出来る、大変有効な一つの気分じゃないかと思います。ですから、そういう点で今日のような騒々しい世の中にあって、自分自身の心の中に「静けさ」を求めることは、「静けさ」を再度心の中に把握することであります。それは同時に、今動いている世の中の存在そのものをはっきり見定めて行くことにも通じます。そしてまた自分自身がそれに対応してどういう態度を取るべきかということを感ずることが出来るのだと思います。いうなればそのような機能を「静けさ」は持っているのです。
 先ほど「静けさ」は、文化の基本になっていると申しました。やはり「静けさ」は、その国のまた民族の、伝統や文化によってそれぞれ違ったかたちを持って表現されています。その表現はどういう表現かといいますと、一種の装置的表現です。「静けさ」という世界をつかまえるための装置が動いて、「静けさ」を捉え、また含み込んでいく。すなわち「静けさ」というものを身のなかにつかまえていく結果、存在をつかめる能力ができたり、またはそれに対して迫力を持った爽快感を得ることができるのです。

 ここで日本の事例を、述べてみたいと思います。先々回のシンポジウムだったと思います。記念講演で禅僧の後藤榮山氏が「静けさの究極は座禅にあり」と語られていました。人間の肉体を使って、座禅という非常に美しい姿勢を整える。そして呼吸を静かにすることによって、瞑想を行う。そのことによって「静けさ」の境地を獲得できるという座禅。凄いものだなとつくづく思いました。これこそ自らの肉体を装置化し、その装置化された姿の熟練の先に成就するものです。その結果禅宗は、色々な文化を生んで来ました。だれにでもできる技とは思いませんけど、座禅とは、大変な可能性をもっている装置と言えましょう。
 一方で、茶道というものがありますす。これはお茶の道。お茶をすすることで1つの「静けさ」を獲得しようというものです。そのお茶をすすることにちなんで、それを囲む茶室をつくります。それは茶碗を始めとした様々な茶道具群で構成されます。それらは全部「静けさ」を求めるという心を基に形成されるのです。このように茶碗をつくり、また茶道に関する諸道具をつくる事によって大きく「静けさ」をつかまえてく文化が、日本ではもう500年も続いているわけです。これは現代にも大変有効に働いていて、だれしもが味わうことのできる非常に素晴らしい世界が華開いています。これも大いなる装置の好例です。
 さらに考えますと、宗教(の場・空間)でも同じではないでしょうか。たとえば教会。皆さんが教会に行かれると、教会の中の光に感動します。それから空間のあの「静けさ」というものに心打たれます。つまりホーリー【holy】な状況が現出する、まさに聖なる空間の存在です。この空間は、人々が常日頃から憧れると共に、真に求めている空間であります。この空間はお寺にもあります。神社にもあります。そこでは光であるとか、香りであるとか、また音であるとか、様々なものを駆使して、静かなる空間を認知することができます。そしてその中で自己を見つめていく。なんと素晴らしいことでしょう。

 今回は、シンポジウムと共同の事業として「静けさ」をテーマとした展覧会が、新宿のリビングデザインセンター・OZONEで開催されています。この展覧会には15名のフィンランドの若い芸術家たちが集まって、それぞれが考える「静けさ」を象徴する装置を創り、皆さんに展示しています。国それぞれに伝統的、文化的、民族的な差異があります。それと同時に、それぞれの「静けさ」のつかまえ方があります。あらためてそのような視点で作品を鑑賞して戴ければと思います。
 「静けさ」」を求めることによってさまざまな自己表現というものが展開されていくことこそ、また大変興味深いことなのです。
 そして今われわれには、は、そのような「静けさ」を求め続けることが求められています。それらを通じて人々が共感を得て、新たな世界を探求して行くことが求められています。「静けさ」は地球を大きく繋ぐキーワードとなります。 日本フィンランドデザイン協会(jfda)において、この度のテーマを「静けさ」にと話題にしたとたん、即座に、そうだっ!「静けさ」は大事だっ!と一致したことからみても、この「静けさ」というテーマの重要性が証明されました。
 この「静けさ」を」を唱え続けてるということこそが、21世紀の騒がしい時代に対して、新しい秩序を生むための大きな力になることを確信しています。われわれが「静けさ」を求め続ける限り、われわれの地球は、心から平和を求める、素晴らしい質を持った世界となります。生きとし生けるものたちの、脈々たる存在を維持発展させていく事が出来るのです。
 本日皆さんは、は、これから沢山の方々のご意見を聞かれると思います。特に展覧会以外に今回のシンポジウムでは、パネリストがそれぞれのお考えのもとで、自分の考える「静けさ」の世界を表明されて、大変興味深いシンポジウムが展開されることでしょう。ぜひ皆さまも大いに楽しんで頂きたいと思います。 最後に皆さんに対して、本日出席できないお詫びとともに、皆様のご参加への御礼の気持ちをお伝えしたいと思います。



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