講演

フィンランド人の暮らし
バルブロ・クルヴィク
インダストリアルデザイン/フィスカーズ・デザインビレッジ



 バルブロ・クルヴィクと申します。今回このような形で参加できますことをたいへん嬉しく思っております。皆さんお元気にご活躍されていることと思います。本日は簡単にオープンスペースについてと、それからフィンランドのモダニストについてお話しをしたいと思います。

 実はこれらのお話をすることにきめたのには理由があります。私は数ヶ月前に日本の雑誌のインタビューを受けました。その時インタビュアーの方から、非常にいい人だったんですけれども、“あなたのライフスタイルは?”、“あなたのライフスタイルは?”としつこく聞かれたのです。しかし、うまく答えられませんでした。結論として思ったのは、フィンランドのライフスタイルといえばスペース=空間、それから動き=ムーブメントだということでした。

 フィンランドと日本との間にはいろいろと共通点もあるのですが、一つ大きく違うのは、フィンランドは人口が五百万人であり、日本は一億二千万人だという違いでしょう。つまり人々の動きそのものが日本とフィンランドではかなり違うということです。フィンランドはアンカレッジと同じ緯度に位置しています。その北緯で最も人口密度が高いのが実はフィンランドなのです。そして春夏秋冬と四つの季節がありますが、実は八つの季節であると言うことができるかもしれません。もう既に他にもこのことを言っている人がいます。

 フィンランドでは昔から長らく木造の建物を造ってきました。そして教会と要塞のみが石で建てられました。そのため古い一般の住居はほとんどが、もう既になくなってしまいました。また、大きな火事でいろいろと燃え尽きてしまうということもありました。木材はインテリアとエクステリアのベースとなるものです。そして、フィンランド人の気持ちを伝えるものであるという意味で、フィンランド人が慣れ親しんできたのが木材です。大昔から森で木を集め、製材し、そしてお皿、器なども含めてすべての物を木造で、木材で作るということをしてきました。

 第二次世界大戦までは、フィンランドは農耕国、農村の国でありました。ところが、その後工業化が進みまして、今では90%の国民が携帯電話で動き回るという国になっています。フィンランド国民といえば、それまで頑固で寡黙な人、そして自分の個性を守る国民と考えられておりましたけれども、今ではそういうイメージと非常に矛盾するものとなり、みんなが携帯電話を使い、公の場で大声で話しているというイメージに変わりました。すべてのことが周りに筒抜けであるという状況です。コミュニケートをする人たちの間では目に見えない空間というものが存在しています。この空間というのは人々が必要としているけれども、存在をしていない空間ということで、非常にリサーチの対象としても面白いんではないかと思います。

 今では子供たちも携帯電話を持っています。親がちゃんとその消息をつかめるようにということです。また、GPSがありますので、子供、老人がいったいどこにいるのかというのが常に具体的につかめるようになっています。そうなりますと、新しい行動パターン、新しい法規制が必要になるということになります。新しい技術によって新しい空間というものが生まれています。

 これはアクセサリーなんですけれども、これで写真を撮って、そして携帯でその写真を送ることができるというものです。アクセサリー型のカメラ付き携帯電話ということになります。もう年齢を問わず、ほとんど誰もが、今ではこの携帯を使っています。ということは、インテリアデザインの中でも、仕事をする場ということを考えなくてはならないということになりました。

 文化は常に変化しています。そして地方、田舎は過疎化が進んでいます。人は都市に流れ込んでいます。ところが、ここでまた非常に矛盾が起きています。つまり都市に住むほとんどの人たちがサマーハウスを持ち、そこで週末あるいは休暇を過ごすということであります。圧倒的に多くの人が休日の日、あるいは、週末は田舎で薪を割ったり、きのこ狩りをしたり、ジョギングをしたりという生活を送っています。フィンランド人にとって最も重要なのはまあサウナっていうことになります。

 これは私が大好きなサウナなんですけれども、これは煙型の、スモークサウナといわれるもので非常にソフトなサウナです。そしてこのサウナから海、あるいは湖を臨み、あるいは森を歩くというのが、まさにフィンランド人の瞑想の姿なのだと、先程別のスピーカーも言っていましたけれども、その通りだというふうに思います。これは、こういう形でフィンランド国民というのは瞑想をするということであります。そして瞑想をするだけではなく、こうやって日々、日常生活から離れ、そしてストレスを解消しているということになるわけです。これは都市に住む人だけに限ったことではありません。田舎に住む農家の人たちも、実は週末を過ごすセカンドホームというものを持っています。つまり日常を離れる、そして自然の中で生活をするということがとても大切なのだということの証だと言うことができるでしょう。

 フィンランドの家は非常によく計画設計されています。七十年代にはかなりたくさんのアパート集合住宅が造られましたが、最近では、高層ではなく低層のアパートが好まれています。また、木造住宅がカムバックしております。そしてラティという町では、シベリウスホールという名前がついた、全て木造のコンサートホールが造られました。素晴らしい音響効果があるようです。
 また、エスポというヘルシンキ郊外の町では、オフィスビルとして木造のものが造られています。都市に住む人たち、特に若い人たちは今、もう自分のところだけではなくて、例えばインタ−ネットを使うためにカフェにいるですとか、そしてファストフードを食べるという生活を送っています。ということで、新しい場が生まれているということなります。若い人たちは外食が一般的になっています。すなわちレストランが若い人たちにとっては新しい生活の場となっているということになります。
 冬は非常に厳しい気候のため、かつては自分の家が居心地のいい場所ということになっていました。しかし今では若い人たちは、家は寝るため、着替えをするためだけの場となっています。人々はあちらこちらに動いています。
 そして趣味も多様化しています。若い人たちは特に冒険、そして激しいスポーツを求めるようになっています。これはそれほど過激なものではありませんけれども。

 かつての農耕社会では家の構成として、壁際に長椅子があり、そして大きなテーブルがあるというものが一般的でした。しかし空間のオープンスペースというものが最近導入されました。
 これはユーロ・クッカプーロ氏の住宅です。皆さんご存知かもしれませんが、私自身、初めてその家を見た時に、もうびっくりしてアゴが抜けそうになりました。若い時にこの実験的な建築物を見て、本当に驚きました。これはスタジオを兼ねる家というものでした。
 インテリアは非常にオープンなものになっていますので、会合をする、ディナーパーティーを開く、あるいは仕事をするという、いろいろの必要性に合わせて中を変えることができます。あるいは季節の変化によって変えることができるようになっています。 冬場は雪があるということで、その細工をすることができるようになっているわけであります。これが建てられた当時は実験的なものとされたわけでありますけれども、ここでは非常に簡素なスペースであるということで、非常に暖かい、人間性を感じることができるものであります。 これはこの家とインテリアデザイン、これは家具も含めてですけれども、これら全てをクッカプーロ氏自身がデザインしたもので、そのスケールというものが完璧であったということが背景にはあるでしょう。
 この家ではキッチンユニットのみが固定されています。後のものはすべてその時の趣味や必要性に合わせてリアレンジできるようになっています。そして入り口とクッカプーロ氏のスタジオとバスルームのみが、壁が周りに配置された形になっております。

 もう一つ、ワンルーム型の住居として、そしてデザイナー自身の家具によって中身が作られている例というのが、アンティとブオッコ・ヌルメスィミエミ氏の家であります。これはボックス型の構造です。シールとグラスでできています。水辺に非常に近いところにあるんですけれども、そこで非常にオープンな明るい空間が出来上っています。そして床にはいろいろな高低のレベルがあり、いろいろな材料が使われているということによって、ほかの部分との区別が行われているという設計になっています。

 ヴィラ・マリエーラ、これを設計したのはアルヴァー・アールト氏。注文をしたのはマイレとハリ・グリッシェンで、1937年に造られたものです。これはハープを想定して造られました。すなわち外壁があるけれども、中はオープンであるというものです。一階部分は一つのオープンスペースとなっています。そして機能性と遊び心の両方をあわせ持つ形になっています。白壁を使った木造は周りの自然と調和する形になっています。森がすぐ背後にせまる立地です。このヴィラ・マリエーラというのは、世界の建築家に今なお大きな影響を与えている建築物です。この空間と、その中にいる人々の間のインタラクションというものが考えられています。ここでは世界的に有名な文化人が一同に会し、そして家族、そして子供たちが過ごすことができる場となっています。現在ではヴィラ・マリエーラ・ファンデーションがこの保存を行っています。

 フィンランドの家庭の半分以上がサマーハウス、あるいは週末を過ごすいわゆる別荘を持っています。これは田舎、あるいは島に持っているというものでありますけれども、ということは夏、あるいは、週末は都市に住む人たちもこういったところに行くということを好むということになります。
 これは二年前に造られたばかりの家でありますけれども、これも一つのオープンスペース型のものです。島にあるんですけれども、どこからでも素晴らしい景色が眺められるようになっています。これは海が見えるようになっています。中もゴタゴタといろいろなものが置かれてはいません。家具は必要ないと。
 カイアン・ヒッケッセレン、建築家でありますけれども、このような展望場を造っています。これは四本の柱で造られたものでありますけれども、これは私が考える限り、瞑想をするにはこれ以上の素晴らしい場所はないのではないかと思います。これが恐らくフィンランドとそのほかの国々を分ける要素ではないかと思います。もちろん外国からの影響というものはいろいろとあります。例えばファッションデザインでも、例えば音楽のビデオなど、これはまさに今のトレンドセッターと言うことができますけれども、こういったところでは、多くの外国からの影響を見ることができます。

 住居ということでは、未来の家が既に存在をしています。これは素晴らしい実験、リサーチの例ですけれども、光が窓からどのように入るのかというものを考えたものです。スマートハウスの中では障害の無いものが造り込まれています。すなわち調理器具など、こういったものがリモートコントロールで操作できるようになり、そしてサウナであれお風呂であれ、携帯電話でオンにすることができるというもの。これはすでに実現をしています。また、家具などをリサイクルする、それからエコロジー意識を持った設計というものが既に一般化しています。建築家であろうとデザイナーであろうと、ある特定のスタイルに従属するということはもう必要がなくなっています。

 今は多極的な、そして価値観も多様化している時代です。そこでは、これこそが正統なやり方であるというものはありません。そうではなく、いろいろなものが認められているということになります。そうなりますと、アーキテクトであろうとデザイナーであろうと、個性を発揮したものがつくれるということになります。つまり、今では主観的な建築、あるいはデザインということではなくて、いろいろなものができるということになるわけであります。

 これは一つの例でありますけれども、これはかつては養鶏場だった、つまりニワトリ小屋だったところでありますが、これをスタジオに改装した例です。で、私の住んでいるフィスカースという村でありますけれども、九十名のデザイナー、アーティストが共同生活を送っている村です。これはやはりフィスカースの村の例なんですが、もう完全にコンテンポラリーな建物に改装されたものです。これは陶器、セラミックのスタジオです。

 トーマス・イットネン氏というフィンランドの建築家がつくったものです。これはオーストラリア、キャンベラに造られた大使館の、造られたというか、提案されたプロポーザルの大使館の例です。これもコンセプト、これはスポーツホール、試合場、スタジオのものであります。



事務局
日本フィンランドデザイン協会 (Japan)
東京都港区南麻布3丁目5-39 フィンランドセンター内
連絡先 : 株式会社 GKグラフィックス内
telephone:03-5952-6831 facsimile:03-5952-6832
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