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「The Quietness」(静けさ)の実体験
見渡す限りパウダースノーにすっぽりと覆われた白一色の世界は、まさに静まり返っていた。トナカイ牧場に、綿毛のように軽くゆっくりと舞い降りる雪をみながら、息を潜めて佇む。耳に届くのは、目の前のトナカイが足を踏み出す音。「クリッ・クリッ」と低く響く穏やかな雪の音のみである。それはその日の深夜に、北極星とオーロラの光りを探しながら大空を見上げていた時にも、唯一の耳に届く音であった。

イナリは、ヘルシンキから北に約800キロ、イバロ空港から車で約1時間。雪原の中にあるレインディアファームを訪れた。

2月25日フィンランドヘルシンキ市にあるヘルシンキ芸術大学のLumeセンターにおいて、第3回日本フィンランドデザインシンポジウムが、テーマ「The Quietness」の下に開催された。
このシンポジウムに併せてフィンランド北端で北極圏に位置するラップランド地域に育まれたラピッシュ文化を訪ねるツアーも企画された。

厳しい大自然の中にトナカイとシャケを追う暮らしが今日まで受け継がれている地域への旅である。日本とフィンランド両国の参加メンバーのうち21名が参加した。



1万年前の氷河と人の移動。メキシコ暖流に添って氷河が後退した/SIIDA Sami Museum and Northern Lapland Nature Center

ラピッシュ文化の歴史展示10〜16世紀(部分)enlarge




深夜に、北極星とオーロラの光りを探しながら大空を見上げる。真っ暗やみの中、少し離れた木立の中に、そのかすかな音で時折りゆっくりと動くカモシカの気配を感じることができる。

地平低く連なるなだらかな丘の林の向こうに、雲り空を通して満月に近い月がぼんやりとした白い光を放っていた。暫く後、天空を覆う靄のような薄雲が切れ、いくつか星のきらめきが見え始めたとき、オーロラが見えるかも知れないとの期待がひろがった。そして、それは突然現われた。無音の天空に、うっすらと薄緑色の光が円錐の一部を構成するかのように放射状に浮かび上がる。それはごく薄い緑色から薄青色へと色を変え、そして徐々に色味が薄れながら白くなり、灰色になって暗い天空に消えていった。一瞬のはかない光のパフォーマンスに引き込まれてしまう。ふと我に帰ったとき、そのオーロラが放っていたどことなく上品な神々しさに包みこまれたような余韻にひたっていた。フィンランドの「The Quietness」に自ら触れることのできた貴重な体験であった。


オーロラ(Northern Lights)Photo: Martti Rikkonen, Finland


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