column 日々、思うこと separate

2020.08.18

コラム

モチベーションの原体験

弊社の場合、扱っているデザインの製品市場が主に海外、という事もあり、CMFGデザインでも調査などで海外へ行かせて頂ける時があります。ご当地をこの目で見る事は仕事へのモチベーションに繋がりますが、今回の話は私にとって特に思い出深いものです。もう随分前の事、私が海外出張業務を始めたばかりの頃の話です。

当時、確か入社4、5年目位だったと思いますが、インドネシア向けモペッドのカラーリング調査出張を経験しました。海外経験などほぼゼロに等しい自分に与えられたミッションは、スケッチを現地に持ち込み、現地の方々に評価を聞き取りダイレクションを見つけてくる、という調査としては極めてオーソドックスなものでした。

オーソドックスでなかったのは目的地で、カリマンタン島、昔はボルネオと呼ばれていた、現地の方でもやや尻込みするような僻地でした。日本人は私一人、ジャカルタから乗る飛行機の中で現地スタッフの方が微笑みながら、いまだに黒魔術師がいるから気をつけろ、と忠告をくれ、目が笑っていなかった事を記憶しています。

さて、着いてみると想像以上の僻地で、調査前に地元のカスタムペイントショップに連れて行ってやる、と言われ、ついていった先の荒屋に居たのは、裸足にパンツ一丁の痩せた男でした。カスタムペイントと言いながら道具らしきものもなく、どうなってるのか困惑しているとその場で実演をしてくれました。ペンキの入った空き缶に、圧縮空気ボンベから出ているチューブの先端をうまく付け、ボンベのバルブを開けるとカラースプレーの様な使い方ができる様です。

器用に自家製のエアブラシを駆使してペイントして行くその様に、スゴイですねえ、と感嘆の意を伝えると、男はニヤっと笑いました。その歯は既に半分以上ボロボロになっており、こりゃだいぶシンナーにやられてるな、と一発でわかる笑顔ではありました。

その夜、廃墟感溢れるホテルの部屋の中、こいつは、もしかしてとんでもない所に来てしまったのでなかろうかと、随分寝付かれませんでした。

翌朝、本調査に臨むと会場レストランはごった返しており、事情を聞くと調査に呼んだお客さんが友達やら家族やら連れてきてしまい宴会状態との事。中に入ると確かに宴会状態で、ムスリムなので酒ではなくジュースですが、何やら盛り上がっています。通訳をしてくれている現地スタッフの方が、まあ考えても仕方がないからお前もココナツジュースでも飲めよ、と適切なアドバイスをくれ、その通りにしました。

そのままココナツジュースだけ飲んでいる訳にもいかないので、スケッチを取り出して宴会状態の人々の中で意見をくれそうな人を物色していると、近づいてきたのはお祖父さんと孫でした。モペッドのオーナーはお祖父さんの方ですが、ワシはデザインはどうでも良いので孫を連れてきたそうです。

お孫さんは見た所小学生くらい、こりゃどっちに聞いても参考にはならんかな、と思いましたが、ふと見るとお孫さんがスケッチの一枚を指して、私に何か言っています。いやあ、インドネシア語はわかんないなあ、とヘラヘラしていたら突然意味がわかりました。
「ビューティフル」
お孫さんはインドネシア語ではこの日本人にはわからないだろうと、一生懸命、知っている英単語で自分の気持ちを伝えようとしていたのです。

わかったのは一言だけでしたが、頭を殴られた様な思いがしました。同時に自分がいかに今までいい加減な心持ちで仕事していたかを痛感し、恥ずかしくなりました。僻地だろうがなんだろうが、そこにはちゃんと自分の仕事を見てくれている人がいるのです。この人たちの為、仕事に全身全霊を捧げようという気持ちになり、この後数年、かなり長いこと私はアセアンのカラーリング業務に邁進して行く事になったのでした。

かれこれ20年以上前の話ですが、自分が真剣に今の仕事に取り組む様になったきっかけの一つです。

( CMFG動態デザイン部 シニアディレクター 渡邉 拓二 )