column 日々、思うこと separate

2020.05.26

コラム

無人ベジタブル・ショップとブランディング

いま5月初旬にこのコラムを書いている。世の中はソーシャルディスタンスが重要になり、スーパーマーケットでも入場制限が見られるようになった。なんだか集約型合理主義の限界が見えてきた感じがする。これからは店舗でも人が密集しないようにと考えると、地域分散型無人店というのは答えの一つだろう。いかにもコストが高そうな形態だが、私の住んでいる東京都練馬区では以前から野菜の無人販売がある。

練馬区の西部地域は、農地と企業/住宅による都市化のタイミングが絶妙だったおかげで、結果として田園都市化がうまくいっている。農業は都市化し、地産地消が盛んになった。農作物販売のひとつに無人販売所がある。それは畑の道路脇にあり、中身の見えるコインロッカー式が多い。セキュリティがしっかりしているため、売り手買い手双方に安心感がある。値段はだいたいスーパーと同じくらい。日中は何回か補充するが、夕方には閉めている。実際に買うときも、スーパーよりも品質の安心感がある。それはスーパーマーケットの品質が悪いというよりも、実際にモノを作った人・畑が直接見えるからだろう。
 
ブランディングという視点でみると、たくさんある無人販売所が買い手に与える印象が、ほぼ同一というのは重要だ。どれもその場で採れたて、新鮮な野菜である。買う人の体験がぶれないから、初めてのところでも安心して買うことができる。その点スーパーマーケットは分が悪い。何でも売っているから印象がバラバラになりやすい。「新鮮」「高品質」などのキーワードで店舗イメージを統一することが重要な防衛戦略だが、利便性で勝てても新鮮イメージでは難しい。
 
さて、未来志向の無人店舗だが、現在のコインロッカー式の無人販売システムは低価格の商品に対してバランスが取れている。靴箱に見える残念なデザインを きちんと食品向けにすれば、ハイテク型の無人店舗システムに十分対抗できると思う。それよりも、前の道を通る人にしかマーケティングできないのは欠点だ。緑の旗は良い目印にはなっているが、IoT化もできたら良いと思う。近所のおすすめがスマホに表示されれば、楽しく、お散歩ルートが変更できる。これからの社会では、近所の散歩は重要なエンターテイメントになっていくのだから、このようなコンテンツ開発についても考えてみたい。
 
( プロダクト動態デザイン部 デザインディレクター 三富 貴峰 )