column 日々、思うこと separate

2021.12.02

コラム

「ミギトヒダリ」

突然だが、右と左って面白い。

人間は9割が右利きと言われていて、多くのプロダクトは右利きのためにデザインされてしまっている。おかげで駅の改札機を通る時など左利きの人が不便を感じる場面は日常で多々ある。そういった問題解決のためにユニバーサルデザインも存在するわけだが、私自身が右利きなのでなかなか実感としては持ちにくい。しかしつい先日、出張先のホテルでそれを痛感してしまったのだ。

そのホテルの蛇口は何故か右に回すとお湯が出るという仕様であった。普段通り蛇口を左にひねると動かない。私もいい大人なので、一度経験するともちろん頭では理解するわけである。しかし何故だろう、わかっているはずなのに自分の右手はまた左にひねってしまうのだ。自分でもバカだなと笑えてしまうのだが、意識よりも先に手が勝手に左回転を選択してしまうという感覚だ。そうして風呂に入っている間にでさえ2、3回栓が回らないということを経験し、「なんて使いにくいデザインだ!」と憤りを感じてしまった。蛇口たった一つにつまずいただけなのに、全世界の左利きの人の日々の不便さを考えるとなんとも器の小さい話だ。などと考えながら眠りにつき、翌朝起きて、歯を磨こうと蛇口をひねる。朝一番の寝ぼけ眼な私はもちろん回してしまうのだ、左へと。新たな1日が小さな苛立ちからスタートしたわけだが、外はなんとも秋晴れの爽やかな朝であった。

この体験は私にとってはとても新鮮で面白いものであった。ただ回転方向が逆なだけでこんなにもうまく出来ないものかという驚きや、体や脳が「水を出す=左に回す」と覚えてしまっている体のメカニズム、右手は左方向に回しやすいという身体性の確認など様々な気づきを与えてくれた。

さて最後に、先週の出張で再び冒頭のホテルに宿泊してみた。リベンジを誓うもやはり数回は右回しの洗礼を浴びてしまうわけである。負けである。仕方ない、コーヒーでも飲んで気持ちを切り替えよう。某コンビニのレジ横のコーヒーマシーンの扉を開けようとすると…、開かない…。これがなんと左側が手前に開く仕組み。2連敗だ。当たり前の便利さにあぐらをかいていた自分に喝を入れてもらったと思えばむしろ得、色々あるけどポジティブにいこうと思う。

( CMFG動態デザイン部 ユニットリーダー 永井 智 )